ホントにもう、どうなってもよかった。
戦禍の後、村を焼き出され
帰る場所も,会いたい人も
一睡の夢の様に失ってしまった今、
何を求めて生きろと言うのか・・・
これから譬え、生きていたとしても
この乱世の世の中を、
ただ逃げ惑い
いづれ疲れ果てて死んでいくだけなら
もうこれ以上、命を永らえたいとは思わなかった。
湖水如
そんな考えに死相を顔面に張りつかせながら
ふらふらと狭い林道を抜けたとき、前面に広がった
下界から完全に隔離されたように佇む湖が目に飛び込んできた。
さほど広くもないが、きっと深いであろうその湖は
さきほどのまつ林と同じくらい濃い緑色をしている。
明鏡のようにきらきらと水をたたえ輝いている水面に
引き寄せられるように近づき、
まるで崩れ落ちるようにその場に両手をついてしゃがみ込んだ。
揺れる水面に変わり果てた自分の顔が映る。
その時、突然両手を何者かに鷲掴みにされたかと思うやいなや、
バシャン、と言う激しい水音と衝撃を伴って、光のプリズムが交差する
水面下に引っ張り込まれた。
苦、苦しいっ・・・・
得体の知れない何かから腕を振りほどこうと、もがけばもがくほど
呼吸は苦しくなり、手足が重くなってくる。
かなりの速さで引っ張られる為、目を開ける訳にもいかない。
呼吸困難なため意識が徐々に遠退き体の力も抜けて行く
もはやこれまでか・・・と悟った時、
柔らかく,あたたかいものが口をふさぎ、細く,優しく呼吸を吹きこんだ。
ああ、
力が抜け落ち、やがて底へと・・・・・・・・・深く深く沈んでいった。
気がつくと子供の頃によく遊んだ、
大杉がある山の中腹の見晴台にいて
上り坂を見上げるとそこには
惜しみなく無条件の愛情を注いでくれた懐かしい両親がいた。
いつでも一緒に野原を駆け回った親友がいた。
ほのかな恋心を抱いた想い人もいた。
命をかけていっしょに戦った戦友もいた。
みんなあの頃と変わらない笑顔で
こっちを見つめ手を振っている。
なんだろう。
こんな幸せを絵に描いたような状況の中で感じるこの違和感は
ふと気が付けばそのなかに
ひとりだけ怒った様に、自分を見据える者がいる。
その目は,すぐにでも親しいもの達の元へ
走っていこうとする自分を戒める様に
・・・疲れた心に突き刺さる。
いいのか。
おまえはそれで本当にいいのか。
とその目は語りかける。
誰もが精一杯生きていたんだ。
けっして気弱に為るな。
負けるなと。
必ずおまえを必要としてくれる人がいる。
その人の為にも生き延びろ。
そして強くなれと。
自分の心に徐々に光が挿してくるのがわかった。
と同時にあの懐かしい顔たちが次第に薄れていった。
気付いた時には
煌く湖水の辺に倒れていた。
あの顔は確か・・・
叱るときは鬼のように怖かったが、
普段は優しく人生を噛み砕く様に
教えてくれた
最愛の恩師だった・・・
また教えてもらった。
何故、自分が生かされているのかを。
自分の為だけに生きようと
思うのではなく
誰かの為に生きようと思えば
気も楽になり楽しみも湧くさと。
よく自分がとてもちっぽけな存在に思えたり、
先のことを思い悩んだりする時があります。
そんな時,こんな自分でもきっと誰かの役に立つんだ
と考えると生きる喜びがふつふつと湧いてきます。
そんな気持を書いてみました。
冷たい 湖水の底 ひそむ 魔性の手 決して 見せてはいけなかった 心の影 人が 生きたいと 思うのは やはり 自分の為ではなく 自分を必要としてくれる 誰かのためでしょうね |
kakoさんより頂きました。ありがとうございます。 |