湖畔に咲く可憐な花を恋人ベルダに渡そうとして
憐れ命を落した青年ルドルフの最後の言葉
「フォゲット・ミー・ノット」
哀しい空の色を溶かしこんだこの花言葉は「真実の愛」
勿忘草
辺りは春の香気に満ち、渡る風は頬をくすぐる。
堤防沿いの道を水色の自転車のべダルを軽快に踏む。
眼下に見えるキラキラと光を自由気ままに反射している水の流れに
ふと目をやり、新鮮な空気を胸一杯吸い込もうとしたその時
僕は「あ!」という奇声を上げたと同時にガクンと体が激しく上下し、
ガシャガシャーンと派手な音を立てて自転車ごと坂を転げ落ちた。
「・・・・・・あいたた〜」
どうも余所見してて,石に乗り上げたらしい・・・
体全体に鈍い痛みをジンジンと感じなら、しばらくその場に座り込み
ズボンやシャツの袖を捲り上げ,擦り剥いた膝や肘の怪我の具合を見たり
服や髪の毛についた草や砂埃を払ったりしていた。
「まいったな。。。」
あ〜あ、と両手を頭の後ろで組み、そのままごろっと草原に
寝っ転がった。
青空にのどかに浮かぶ綿菓子にような雲を
見上げている僕の視界にその娘はいつのまにか入りこんでいた。
「・・・大丈夫?」
そう問い掛ける彼女を一目見て
一瞬、天使が地上に舞い降りたのかと
目をゴシゴシと擦ってみた。
『天使なら本来翼があるべきだ。』
あてに為るのかならないのか、なんともわからないその条件を
残念ながら満たしていないものの
その透明なほど白い肌にさす頬の清らかな薔薇色、言葉を紡ぐたびに
宝石が零れ出しそうな愛らしい唇。
軽く三つ編みに編んだ柔らかそうなその髪は、降り注ぐ光と
楽しそうに戯れている天使そのものだ。
「どうしたの?痛いの?」
呆然と口を開いて、まったく反応がない僕に、その澄んだ瞳が問いかける。
はっ,と我に返り
「う、うん なんとか大丈夫。」
と、どぎまぎしながら半身を起こし、笑顔をどうにか作ってそう答えれば
「ここ,血が出てる・・・」
そういうとその娘は僕の掌の甲を手に取り
そこに唇をあてた。
「ドキッ」。
全身に電流が走る。頭の中が朦朧とし、いまにも卒倒しそうになる。
「い,いいんだ別に。こんな怪我,いつもしてるんだから・・・」
と,視線を泳がせながらやっとそういうとすばやくその手を背中に隠した。
「あ、ごめんなさい。。。怪我するといつもママがこうしてくれるから」と
大胆な自分の行動にいまさら気付いた様に薔薇色の頬にいっそう紅を添える天使。
「僕の名は立飛。ぼんやりしてて気付いたらここにいたんだ。」と
頭をぼりぼりと掻きながらそう言うと、
「私は卯月。さっきまでそこで大好きな詩集を読んでたら
あなたが空から落っこちてきた。」
それから二人はそっと覗きこむ様に目を合わせ,
突然,堰を切った様に笑い転げた。
「水に入らない?」
と卯月はそう言うが早いか、サンダルを片手に持ち、
もう片方で僕の手をぐいっと引っ張り、川原に駆け出した。
つるつるした水面に両足を浸せば、まだ残る冷たさが
なんとも心地良い。
ときおり水飛沫が跳ねかえる不安定な足場を
手を繋いだまま、バランスを取り時の経つのも忘れて歩いた。
みずみずしい青春の息吹が、川にも,山にも、草原にも、空にも
この二人の生命にも満ち充ちている。
「もう帰らなきゃ。」
と、木陰にもたれながら静かに詩集を読んでいた卯月が、
とうとう微笑をこちらに向けながらそういった。
『このまま時が止まれば良いのに』と密かに願っていた僕は
否応無く現実に引き戻され、それを受け入れた。
「そうだね。」と立ちあがって服をパタパタと払った。
「またいつか会えるかな。」と儚い期待を込めてそう問えば、
それには答えず渡されたさっきまで卯月が読んでいた詩集。
「じゃあね。」と名残惜しそうに消えていく後姿。
彼女の姿が見えなくなった後
ぱさっと開いたページに挟まれていた栞は
水色の「わすれなぐさ」。
「忘れないで…いつか、きっとまた巡り合えるから」
立飛はフッと微笑んだ。
どうもスミマセン( ̄□ ̄;)!!
あまりにも内容がないよう・・・な。
「勿忘草」と聞くとどうしても悲しい別れを思い描いてしまうんですが
できたら夢を持ちつつ締めたいと思って書きました。
立飛=リッピーさんです。卯月は秘密★
・・・リッピーさん,こんな私を許してくれる?