灼熱の暑さに身を焼かれるのでもなく

極寒の寒さに身を切られるのでもない

さほどの苦しみもないかわりに

あまりある喜びもない

 

忘れ去られた無限の時空の狭間を漂う

暗闇に淡く輝く青色の球体

その中で背中を丸め 膝を抱え

ぷかりぷかりと流離う永遠の生命の球体

 

転生 

 

何もかも、過ぎ去りしことを忘れ去り、

まるで大気の中に己の魂がすべて溶け込むような

深い眠りによって

宇宙と融合し続けていた無の心をそれは呼び覚ます

<さあ 今宵 永い眠りより目覚めなさい>

 

高らかて荘厳な声は森羅万象の神のミコトバ

 

<時はすでに熟し あなたは今こそ 転生の時を迎えたのです>

<さあ 行くのです>

 

「何処へ?」

 

<おまえが望んでいる場所へ>

<おまえを望んでいる場所へ>

 

「何処へ行くべきか わたしには わからない」

 

<心配するな それは 風が 木々が 潮の満ち引きが

あなたをその場所へと導いてくれる>

 

ざわざわと木の葉が擦れ合う音のように

降り注ぐ木漏れ日のように

あらゆる空間から聞こえるその声は

数えきれないほどのささやき

 

 

「わたしは幸せになれる?」

 

<全ての命の声に耳を傾けていればきっと心はいつも平穏でいられる>

 

「つねに耳を傾けるの?」

 

<そう 決して耳を塞いだり 目を閉じたりしてはだめだ

そんなことをすれば 真実が見えなくなり 臆病になる

そういうときにかぎって 必ず不幸は訪れる>

 

「人生の結末はもう決まっているの?」

 

<人の一生なんて山を下り降りる濁流のように

一度流れ出したら止めることは出来ない。でも本流から支流に分かれ

それがまた枝流に分かれるその進路を決めるとき

その己の生命から発せられる叫びを聞き逃すな。

そして、いつのまにか日常と言う流れに身を任せていようとも

常に自分の望む目的地だけは見失うな

流れの方向をもし誤っても もはや山を戻ることは出来ない

でもそこから飛び出して新しい流れへと変更することは

勇気があればいつだって出来る

必要ならばその迸る心情の激しさによって

木々をなぎ倒し 流れなき場所に水路を切り開き

そして己の力で広く豊かに大地を潤してゆける

 

途中で 水が枯れるかもしれない

思わぬ所へ流れ着くかもしれない

 

しかし

 

その道がどんな運命をもたらそうとも ただ流れ落ちて行くよりは

 戦うほうが ずっとマシだろ?>

 

「そうかもしれない」

「生きることは 待ってるだけじゃなにもわからない

その流れに逆らって、ぶつかって、弾け飛んで

はじめて 実感が湧く。。。」

 

「ところで、なにを抱きしめていったらいい?」

 

<純粋な心と いつでも真っ直ぐ正面を見つめる瞳

それだけあれば他には必要ない>

 

「じゃあ、行きます」

 

暗闇に淡く輝く青色の球体が

いまひとつ弾けた。

 

 

おわり

 

<もどる>


自らの運命を切り開いていける強さが欲しい。

後ろを振り返るばかりの臆病な生き方は悲しすぎるから。