生命を生み 慈しみ育てる母

貴方のその眼差しが背中にあれば

いつでも どこへでもいける

 

 

MOTHERS DAY

 

 

 

勢いよくカーテンを開ける。

朝のまぶしい光が差しこみ

新鮮な息吹が部屋中を満たす。

生命力溢れる朝。

新しい一日の始まり。

紀子は歯ブラシを咥えたままつっかけを履き

裏口から庭へと出た。

そして毎日そうするように丹精こめて育てている花達を嬉しそうに愛でながら

「おはよう!今日もきれいに咲いて楽しませてくれて有難う。」

と心の中で声をかける。

深紅のビロードのような花びらを半分ほど綻ばせているバラや

透き通る朝露を湛えている薄紫のテッセン、

庭のあちらこちらにこぼれ種で育った可愛らしいスミレ。

そうして暫くの間、咲き終わった花ガラを摘んだり、花弁や葉の裏に

アブラムシや害虫がついていないかひとつひとつ点検しながら

庭の手入れをしていると玄関で人が呼ぶ声がした。

慌てて洗面所に駆け込みうがいをするとそちらに向かった。

 

 

「一体なにかしら?」

たったいま宅急便で届いた50cm四方の箱の送り主は

去年嫁いだ娘になっている。

箱を開けてみて「まあ!」と、思わず声を上げた。

中からは、白い磁器のフラワーベースにピンクのカーネーション

フリージア,スイトピー,カスミソウなどの花々で見事に飾られた

アレンジメントフラワーが現れた。

そしてその中央にはステックタイプのメッセージカードが刺さっていて

「おかあさん、いつもありがとう。感謝の気持を込めて 陽子」

と書いてある。

「そっか、すっかり忘れていたけど今日は母の日だったのね。」

娘からの思いがけない贈り物を箱の中から取り出すと

窓辺のサイドテーブルに飾った。

ほどなくしてドタドタドタと階段を駆け下りる音がする。

「お母さん,早く飯、飯」起きてくるなりそう叫ぶ

高校二年生の陽子の弟、昇だ。

「どうしてあんたはいつも…もう少し早く起きられないの!」

毎朝繰り返す同じセリフにいささかウンザリしながらも

そういうが昇はいっこうに気にした様子も見せずに

窓辺に視線をやり、「あの花,お姉ちゃんから?」

と尋ねた。「そうよ,母の日のプレゼントだって。」

とその問いに答える。

「ふーん、よかったね。でもぼくのは期待しないでよ」

と,何も言わないうちから釘をさす。

「はいはい。あんたはバイトして夏休みに北海道に旅行に行くんだもんね。

母の日なんて関係なかったよね〜」とちょっと皮肉っぽく

言い返してやった。

正直,母親なんてもんは子供たちがしたい事を見つけて

頑張っている姿を見ている時が一番幸せなんだが

それは秘密にしておくとして,

そんな思いを知ってか知らずか

昇は「ふふん。」

と謎の笑みを浮かべさっさとショルダーバックを

肩から下げ、トーストをくわえたまま玄関へと走っていった。

「いってきまーす」

大きな声がしたと同時に「バタン」とドアの閉まる音がした。

 

あ〜やっと今朝も嵐が去ったか。

そう呟くと自室のドレッサーにむかった。

椅子を引いて座ろうとするとそこに

赤いリボンのついた紙袋が鎮座している。

 

きっと昇からだわ。

 

金色のシールを外して封を開けてみると

中にはなにやら折たたまれた薄地に花柄の布がある。

取り出してみると思った通りエプロンだった。

「あのこったら、ふふっ。でもこれってちょっと派手過ぎないかしら?」

ルンルンとさっそくそれを身につけて

鏡のまえてクルッ、クルッとターンしてみた。

そしてもう一度鏡を覗き込んでみれば写っている自分の後ろに

あっけに取られている夫がいる。

 

「おまえ・・・だいじょうぶか?」

「やだー、居るなら居るってこえかけてよー」と

照れ隠しに背中をバシッと思いっきり叩く。

「イッテー、おまえは相変わらず乱暴者の粗忽ものだな。

そんなんじゃ、その花柄のエプロンが悔しがって泣くぞ。」

と憎まれ口を叩く。

「ほっといてよ」

とそう言い捨てプンプンと怒りをあらわにしながら

洗濯ものを干しに縁側に行こうとすると

「ちょ、ちょっとまった。そう言えば箱の中にこんなもんがはいっとったぞ。」

と言われて白い封筒を渡された。そしておでこに「ちゅっ」と

いらぬ付録までくれた。

 

 

え〜と、なになに・・・あら,陽子の旦那様からだわ。

封筒と同じく真っ白な便箋に実直そうな文字がある。

 

「御義母さん、いつもお世話になります。急なんですが陽子の提案で

今晩両家の家族をよんでささやかなパーティをすることになりました。

今夜7:00に我が家へいらして下さい。

二人して楽しみに待っています。

追伸 僕に素晴らしい陽子さんと巡り会わせて

くれた奇跡の母に感謝しています。」

 

自分の娘を、子供を慈しんでくれる人が居る。

なんて幸せなんだろう。

母として生きてきてこれ以上の誉め言葉はないんじゃないかと紀子は思った。

そして今度は自分の胸が感謝する気持で溢れそうになった。

 

 

<戻る>


広い世界の

どこかであるかもしれない母の日のヒトコマでした。

みなさんは母の日、なにかされますか?

わたしはお花を送っておしまいです(^^;ゞ