それからまもなく省吾のだした新曲が全米で記録的な大ヒットを飛ばし
その年の全米ゴールデン・ミュージック賞に輝いた。
それに併せ、日本の巨大プロダクションも手掛けている大企業から
ぜひともわが社にプロデュースさせて欲しいという申し出があった。
それが今回のオリエンタル・コーポレーションだった。
省吾は自分が真実を知ったことを伏せて
織音に手紙を送った。
今度、自分の祝賀会が開かれるので是非来てほしいと
文面で切々と語った。
最後には以前にライブのチケットを渡したときに
来てくれなかったことを恨めしげに綴り、
代わりに今度こそはと、半分脅した。
やることはやった。あとは神のみぞ知ると運命を天にまかせた。
いっぽう織音はその手紙を読み、心を躍らせた。
手の届かない所にいってしまったことは寂しいながらも
省吾が夢を叶えたことがそれ以上に嬉しかった。
たとえ遠くからでも、その姿が見たかった。
そして向かった会場。
なかへと入った途端、主催者を知り途方にくれた。
なぜなら父が経営する会社のひとつなのだ。
しかし広範囲に諸々の会社を手掛ける多忙な父は
きっとここには来てはいないだろうとあえて推し量り、
華やかな人込みのなかに紛れて行った。
そして今、こうして愛しい人の胸の中に抱きすくめられている。
これは夢かと思った。
しかしそう思いながらもリアルな温かさを持って流れ落ちる涙に
気づくのだった。
突然起きた、嵐のような歓声と割れるような拍手
そしてその人だかりのなかにできた道を大きな花束を抱え
歩いてくるのは懐かしい織音の両親だった。
「織音、おめでとう。よくがんばったね。」
もう織音には、泣くことしか出来なかった。
祝賀会が終わって後
省吾と織音は前にも二人して訪れたことのある
あの港の見える丘に来ていた。
いまは言葉を交わさなくても相手の鼓動が痛いほど伝わってくる。
それは切なくなるくらいに。
遠回りしたようなきもする。
もっと早く幸せになる方法などいくらでもあったきもする。
でも・・・
人生に近道などないと思いなおした。
海から渡ってくる潮風に吹かれながら、
ただふたりは繋いだこの手を
もう決して離さないと心に誓うのだった。
いつか子供たちに この時代を伝えたい〜
どんな風に人が希望(ゆめ)を 継ないできたか〜
人は夢をしんじ ただひたすら
前へと進むだけ
勇気一つと 心に愛を携えて
END