*れいんぼーふぁにー*

身寄りのない 年老いた猫が
  たった一人で 暮らしていた
太った体を 石のように 横たえて
いつも気難しく 黙ったままだった

仔猫たちは ほんの気紛れに
蝶を追いかけながら
爺が住んでいる 原っぱへと やって来た
見晴らしのいい原っぱから 遠い山影に
うすい虹がかかっているような気がして
ジニーはみゃーおと 仲間たちを呼んだ

とても 暖かな午後だった

ファニー爺は 草の間に身を横たえて
お日様で 体を洗っていた

仔猫たちは 一斉に 駈け寄った
まだ早い春の 少し肌寒い風が
爺のぼろぼろの毛並みを振るわせた


「わたしがまだ 若かった頃・・・
垂れさがったまぶたを わずかに持ち上げ
思いがけないやさしい声で ファニー爺は ポツリと呟いた

「あれは美しい猫じゃった・・・

おいぼれファニーが まだしなやかな牡猫だった昔??
はるか遠くの虹を 夢見るように
爺は一瞬 若々しく髭をピクつかせた

「あれは美しい猫じゃった・・・
澄んだ灰ブルーの眼をしとった
くすんだベージュの長い毛に もやっと包まれた体は
ほっそりと しなやかだった
「あれは 不思議な猫じゃった・・・
あれが走るたび おてんとさまが
毛の色を ブロンドやグレーやブルーに染めた

春の光を振り撒きながら 走る姿は
まさに 虹色の猫のようだった
「あれは幸せな 猫じゃった・・・
じゃが とうとうそれに気付かずじまいじゃった・・・

仔猫たちはもう 爺の話を 聞いていなかった
それぞれ 日だまりに寝転がったり 影を追いかけたりしながら
じゃれ合っていた

ファニーのしょぼついたまつげが 雫をくっつけて光るのを
見たものは 誰もいなかった



*私がまだ猫飼いだったころの 美人猫ジニーを登場させたおはなしを作ってみました
2、3日前に用があってありかの学校に行ったら きれいな仔猫が3匹もケージの中で眠っていました
猫も好き♪懐かしくて・・・かなり強引にアヒルの壁紙です(^^;;  
この絵は頂いた物で玄関に飾っている小さい油絵です  (2001/5/12)