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エッセイ一覧

>>花村萬月風”雨の日の過ごし方”<<

雨になると・・古傷が痛むんだよ。
ああ、刺された傷じゃねえんだ・・・。
あんなのはしょっちゅうだからな。

それよりな?
自分で自分を切りつけたくなるときがあるんだよ。
「自分が今の自分でいいか」。そんなことなんてどうでもいいんだ。
どうして自分で自分を傷つけたりなんかするのかって?
・・・理由なんて、誰も分かりゃしない。
だって俺にだって分からないんだからな。

ずいぶん深い傷だったのね、だって?

そうだな。
カッターナイフでも包丁でもなんでもいいんだが・・・・・一回切りつけるだろ?
するとだんだん気持ちよくなってくるのさ。
人間の体の皮は意外と厚いもんだ。
俺の場合、面の皮がいちばん厚いがな・・。
気がついたら腕から多量の血が流れ出てる。
ほかじゃ見られないほどの美しい光景さ。
そう言えば、昔つきあった女が、国道134号線から見える富士山を見て
「こんな綺麗な光景、今まで見たことないわ」
なんて言って興奮してたな。
俺は興奮してる女を見て興奮していたが・・・。

この雨で、多少は乾いた木も花も、喉を潤すことができるだろう。
雨も悪いもんじゃないぜ。

「濡れるわよ。」

そう。
オマエと肩組んで歩くのなんて雨の日だけだもんな。