「う…っお」
爆音がコースをつつむ。
世界で最も位の高いレース…Formura 1。
世界最速の座をかけて 男たちの威厳がぶつかり合う場所。
「ふあ〜、すごいね」
F1の初戦、オーストラリアGPのチケットを勝ち取った俺。
…と、何故か手に入れていた、隣のクラスメート。
俺が教室で自慢していたら「あたしも持ってるよー」と言って、
とても自然に、何も苦労しなかったかのように差し出した。
そして、何の因果か、隣同士で座ってるわけで。
「…なぁ、お前ってF1に興味あったのか?」
「へ?うん、まぁ、こういうのって好き」
春休み。
必死にバイトするかわりに親から金を前借してまで買ったチケット。
旅費もバカにならないが…やはり生で見たいもの。
なのに…
「あ、もうすぐ予選の1台目が出るよ」
なんでこんなところでまで、クラスメートに付き合わにゃならんのだ…
「ちょっとー、見てる!?」
「見てるって!」
エンジンの爆音にかき消されないように必死で声を出す。
フォーミュラーの世界に、騒音規制など無いに等しい。
今日は、予選最終日。
1度きりのタイムアタックに、皆が闘志を燃やしていた。
前に走った最速ラップを更新するたびに場内が沸いた。
ポールポジションの奪い合い。
果敢に攻めすぎてミスをする者。
ポールポジションを取った時の小さなガッツポーズ。
ここには、子供の心をもった天才たちが集まっている。
そして、第1回予選で4位と振るわなかった赤き皇帝、
ミハエル・シューマッハのマシンが現われた。
場内が、歓声に震えた。
真紅のマシン、ウィングには「Marlbolo」の文字。
現在、世界最速の男の登場だ。
「うん、やっぱ生はすごいね」
「あぁ、だな」
「やっぱ、いつかはあそこに行きたいな」
「…お前が?レーサー?」
「そうよ。悪い?」
「……」
普段、こいつは何をやらしてもダメだ。
物を持たせればほぼ必ず落とすし、階段を踏み外すのも珍しくない。
「あ、今すごい失礼なこと考えたでしょ」
「い、いや…夢があるのはいいことだと思うよ、うん」
「ひどいなぁ…あたし、今もう免許を取ってるんだよ?もうすぐ卒業なんだ」
「…お前が?運転免許?」
「…殴るよ?」
「いや…スマン」
どう想像しろと言うのだ。
こいつが車を運転すると?
と、その時。
「あ、来た!」
最終コーナーを立ち上がって、赤い皇帝がフル加速で直線を駆け抜ける。
これから、このコースを本気で攻めるところだ。
「…いつか、初の女性レーサーとしてここに立つのが夢なんだ」
「……」
一度言い出したら聞かないのも知っている。
そして、そんなに簡単に諦めもしない。
「…頑張れよ」
赤いマシンが、再び最終コーナーから姿を現した。
観客が皆、タイムに注目する。
そして、見事にポールポジションを、圧倒的な速さで奪い取った。
場内が再び沸きあがる。
このマルボロカラーのマシンは、今年も人々に夢を与えていくのだろう。
|