毀れた弓

私達は、ようやく結婚することが出来た。
お金がなく、結婚式も挙げていない。
家も賃貸アパート、4畳半2間に2人暮し。
だけど、私は何一つ不自由していない。
彼がいてくれれば、それだけで幸せだから。

そんな私達だけど、1つだけ、
ものすごく大きな贅沢をしている。
彼の念願であった、2人乗りの車を買った。
このためだけに2人でお金を貯めたと言っていい。
フロントグリルに輝くシルバーアローのエンブレム。
メルセデス・ベンツのオープンカー、SL55AMG。
全て合わせて2000万円と聞いたときには驚いたけど、
私は何も構わない。
その車で、2人で何処へでも旅が出来るから。

彼はとても真面目。
仕事もきちんとこなして、夜は真っ直ぐ帰ってきてくれる。
先輩との付き合いのときも、きちんと電話を入れてくれる。
そしてそんな日の夜は私をいつもよりも愛してくれる。

休日、彼はパソコンに向き合って、新しいプランを考え続けてる。
「必ず上司を認めさせるんだ」って頑張ってる。
だから、私は彼を応援する。
「冷たい人だね」って言われるけど、大間違い。
そりゃ、時々寂しくもなるけど、そんな気持ちも全部、
彼は受け止めてくれる。

そして暇な休日には、2人でドライブに出かける。
屋根を折りたたんで、外の風を目いっぱい吸い込んで、
街中を、森の中を、海岸線を、高架道路の上を、
2人であてもなく走り回る。
この瞬間が、私たちの最高の贅沢。
他のことにお金を使うなんて勿体無い。
2人で、2人の愛車にお金をかけるのが一番楽しい。

ある日、旧友達に食事に誘われた。
子洒落たバーらしいので、私は帰りに彼に迎えに来てもらうことにした。
友達はみんな大人びていて、それぞれに今を満喫していた。
私の話をすると、みんなビックリしていた。
「生活を車に捧げるのって、ある意味冒険だよね」って。
でも私は満足。だって、すごく楽しいから。
みんなは「上司が嫌味ったらしい」とか、「彼が最近冷たい」とか。
だけど、そんな彼女達も、私には楽しそうに見えた。
そして、「私達って幸せだね」って笑いあった。

この時間が、永遠に続けばいいのに…そう思えるほど楽しい時間。
だけど、全てのものには終わりが来る。
気が付けば閉店時間間際。
私たちは会計を済ませ、店の外に出た。
皆電話を取り出し、それぞれの彼氏に電話をかける。
そこで、「誰の彼が一番かっこいい登場をするか」を賭けあった。
私はとても自信があった。
「ベンツのオープンカーで出迎え」なんて、勝ったも同然。
私は必至に笑いをこらえながら、彼を待った。

最初に来たのはスポーツバイクだった。
赤地に黒のスポーツバイクは、夜の街によく合っていた。
その彼女がゲームの内容を説明し、他の人を待ってもらう。
あぁ、バイクもアリだなぁ、なんて思っていると…2台目が現れた。
現れたのは真っ白なミニバンで、エアロパーツなんかがゴテゴテ付いていた。
その彼女が「2人の愛の城ヨ」とボケると、隣にいた彼女がすかさず
「縦揺耐震対策は万全か?」とツッこんで周りを笑いの渦に巻き込んだ。

このくらいの時から、私はだんだん不安になっていた。
家からはそれほど遠くないし、今の時間なら車も少ない。
もうとっくに着いていてもおかしくない時間なのに…
そうしている間にも、他の人の彼氏が2〜3人来た。
ワゴン、スポーツカー、ママチャリで来た時には全員が爆笑した。
だけど、私だけは笑えなかった。
いくらなんでも遅すぎる。
そんな私を友達が見て…
「どうしたの?顔色悪いよ?」
「あ…うん、もうとっくに来てもいいんだけど…」
「だよね…確かそんなに遠くないよね?」
「うん…この店は2人で来た事あるから知ってるだろうし…」

その時、一組のカップルが血相を変えて走ってきた。
「おい!あっちで事故があったって!車が燃えてるぞ!」
全員が騒然となった。
皆、救援活動のために各々の方法で現場に向かう。
私はミニバンに乗ってきたカップルに便乗させてもらった。

現場はすさまじいことになっていた。
改造車同士の多重クラッシュ。
暴走族らしき集団が警官に囲まれている。
だが、その事故車の中で少し違う車を見つけた。
改造車には程遠い、丸みのあるスタイル…その車は炎に包まれていた。
ただ、スモークの入った窓からはよく車種が分からない。 「あれって…!ねぇ!」
車から降りると、友達が私のところに走ってきた。
「あの燃えてる車!あれってあんたの彼氏のベンツじゃないの!?」
心臓が早鳴った。
よく見ると、フロントグリルにはシルバーアローのエンブレム。
見まちがうはずがない。
車体は至る所がへこんでいた。
「聞いてきたよ!暴走族に囲まれて、振り切ろうとして事故に…あっ!?」
一番の親友の声が聞こえた気がした。
もう何も聞こえない。
友達の静止を振り切り、野次馬を蹴散らし、警察官の間を縫う。
車の屋根は偶然にも開いていたので、そこへ飛び込む。

「大丈夫!?」
私の最愛の彼は、虚ろな瞳で虚空を見つめていた。
顔中血塗れで、体が燃えていても、眉一つ動かさない。
私に出来ることは、彼を抱きしめることだけだった。
何の因果で、人類の屑共に追われ、こんな結末を迎えなければいけないのか。
だけど、私に後悔はない。
彼と共に、2人の愛車の中で、2人で終われるのなら。
心残りがあるなら、あの屑共に私自ら鉄槌を食らわせてやりたかった。
この車が動くなら、二人であの連中を全員轢き殺してやりたかった。
それももう叶わない。
体が燃えていく。
彼も苦しい思いをしたんだ。
熱も、痛みも、彼と一緒ならなんてことない。
さぁ…一緒に、逝きましょうか。

「……!」
「……!」
「あっ…おい!」
「……!」
「待て!爆発するぞ!」
「……!」
「……」
警官の声が、泣き叫ぶ友人の声が聞こえた。
あぁ、友達を泣かせたのはまずかったかな?
そんな事をふと考えた次の瞬間、私達の魂は、
車と共に砕け散った。
派手な爆発音と共に、破片を、炎を撒き散らす。
怯えなさい、屑共よ。
私達の呪いを。
私達を殺したことを、刑務所の中で夜な夜な後悔しなさい。

私たちは、毀れる事で永遠となった弓…
2人の夢の結晶である銀の矢とともに…


はい、最後にタイトル入れたところで、テーマ違いなのは払拭できませんw
しかも、シルバーアローって弓じゃなくて矢じゃんってツッコミw
だめすぎだ…

そもそもこの内容になったのは、
「弓…弓形月…違うなぁ…破魔矢…巫女…ダメ…ふぅむ…」
とネタを練っていたときのこと。
友人からカーレースゲーム「Gran Turismo」について質問されて、
「弓…アロー…シルバーアロー…メルセデス・ベンツ…これだ!」とw
ベンツのシンボルマークのことを「シルバーアロー」って言うんです。

Mercedes-Benz SL55AMG
本体価格:1600万円
エンジン:5500cc V8 SOHC スーパーチャージャー
最大出力:500ps/6100rpm 71.4kgm/2750〜4000rpm
車体重量:1980kg

それと、登場したスポーツバイクは、

HONDA CBR600F4i
本体価格:82万円
エンジン:600cc I4 DOHC
最大出力:69ps/10500rpm 5.3kgm/7500rpm
車体重量:198kg

ま、バイクはこのあたりが妥当かな?と。
むしろ、注釈入れないといけないような文書くなよ自分w

車(矢)を動かす(放つ)2人(弓)の物語だと解釈してください。解釈しなさい。(待て