かみなり

私は雷が大嫌い。
一般的な、雷嫌いの人と共通するところもあるけど、
私にはどうもそれ以上の理由があるらしい。
ただ、それは自分でも良く分からない。

雷を極端に嫌う私は、雷が来そうで怪しい日には外に出ない。
カーテンを閉め、電灯をつけて家の中ですごしている。
やむを得ず外に出ている場合には、空が視界に入らないようにしている。
そして、雷の轟音に怯えながら、ただひたすら子犬のように震えている。

その日は、天気を調べるのを忘れていた。
彼氏と一日、楽しくデートをしていて、私はかなり上機嫌だった。
そして、一日の最後にと、街外れの公園に2人で行っていた。
一日の感想、日々の中での雑談、ちょっとした文句。

「お昼過ぎに行った店には、また行きたいね」
「そうだね。次はどんなのを食べようか?」
「うーん…リゾットなんか良くない?」
「うん、いいね。あとは付け合せにサラダかな?」
「それで決まりね…あ、おなか空いてきちゃった…」
「…っと、じゃ、そろそろ出ようか」
そう言って彼がブランコから立ち上がった瞬間…
ゴオォ…ォン…
「!!」
「…? どうしたの?」
「…雷」
私は立てなくなっていた。
屋外で、しかもどこにも逃げ場所がなかったからだ。
「あ、雷苦手なんだ?」
そう、彼はまだ、私の雷嫌いを知らないのだ。
「…ぁ…んとね、どこかに建物ってない?」
「いや…この辺は住宅街だからなぁ…」
「嫌…嫌ぁ…どこか、どこかない?」
自分でも、どうしようもない駄々をこねているのは分かっている。
だけど、私はもはや冷静ではいられなくなっていた。
「おいおい、大丈夫、ここには落ちやしないって。近くに電柱もあるし」
そう言って彼は私に手を差し伸べた。
確かに、ここに居てもどうしようもない。
彼の言う事にも一理あるし…ここは無我夢中で走るという選択を採用し、
彼の手を取ろうと顔を上げ…

ガアァーーンン!!

彼の後ろの空に、網のように無数に光る閃光。
初めて、いや、記憶のある中で初めて稲光を見た瞬間、
私の意識はどこか遠い世界へと飛んでしまった…

…………

「どうしたんだ?コイツ」
「あぁ、適当に捕まえてきた」
「それって誘拐なんじゃねぇか?」
「大丈夫、コイツで遊んでやれば忘れちまうさ」
「それって…スタンガンじゃねぇか」
「そう。これって面白いぞ」
そういいながら、縛られて身動きが出来ない私にスタンガンが押し付けられた。
私はまだ、この時は、これがスタンガンだと知らなかった。
「いいか、見てろよ」
そう言うと、男がスタンガンのボタンを押した。
バチッ!
「!!」
全身の筋肉が、強制的に動かされた感じがした。
それとともに激痛が走る。
「な、面白いだろ」
「へー。頭にやったら記憶とかトんじまうのかな?」
「それよか、もっと面白い場所にあててみようや」
体中、色々な場所にスタンガンがあてがわれ、電流を流される。
私はその度に激痛が走り、涙が溢れた。
「…ぁ"…う"ぁ…」
騒いだり、逃げようとすると男にすぐに捕まえられ、
より長く電流を流される。

「…さて、そろそろ止めとかないと死んじまうかもな」
「んだな…そろそろ日も落ちる」
「おい、今日の事、絶対に誰にも話すなよ」
私は、頷くしかなかった。
「話したら、今日よりもっとひどいぞ」
私を捕まえる前に警察行きよ、と思いながらも頷く。
「うん、じゃ、ご褒美にとびきりのをね」
ガッ、と両足を捕まれた。
そのまま足を開かされ、両膝の裏を1本の棒で固定する。
「それじゃ」
男が邪悪な笑みを浮かべた。
スタンガンが股にあてがわれ…放電された。
目の前が白んで、急速に意識が遠のいていく…

…………

「…ぃ…ぉぃ…おい、落ち着けって!」
気が付くと、公園に戻っていた。
私の体には、誰かが纏わりついている。
逃げなきゃ。
逃げないと、また電気を流される。
執拗に絡みつく腕を振り解いて、できるだけ、遠くに…

「落ち付けっ!」

体が軽く浮き、地面に両手を叩きつけられた。
その上から誰かが覆い被さる。
「俺だってば…何で逃げようとするんだよ?」
目の前に写ったのは、雷ではなく、街灯を背にした彼だった。
そうと認知した瞬間、私の頭の中が鮮明になっていった。
曇り空、星が見えない。
彼の顔と、街灯に照らされた彼の体の輪郭が見える。

さっきのは、封印された記憶?

意識の最下層に記録された過去?

私は抵抗を止めた。
彼に抵抗する理由なんて無いから。
「はぁ…どうしたんだよ?急に…そんなに嫌いだったのか?雷」
「…ううん…ちょっと、嫌な過去があって…」
本能がこの事を思い出すことを嫌い、
無意識のうちに稲光を避けていたのだろうか…?

「…大丈夫、俺がいるから」
それは、初めて彼が口にした口説き文句。
いつも私ばかり、言葉で愛情を押し付けて…
でも、今日だけは、彼が私を求めてくれている…

「…うん、そうだったね」