ガードレール

青い空、青い海。
山沿いの海岸線をひた走る自分とバイク。
ガードレールの向こうには、小さな漁村が見える。
そんな小さな村で、一人の少女に出会った。

「知ってる?このガードレールは死を意味するんだよ。
 落ちたら死ぬよ、って」

彼女の後ろには断崖絶壁。
下には村はずれの森があり、落ちればほぼ間違いなく死ぬだろう。
その、ガードレールの向こうに少女は立っていた。
「おい…危な…」
急いでバイクから降りて手を差し出す…と、
彼女の方から手を握ってきた。
「連れてって」
「何?」
「後ろに乗せてほしいな」
「……」
俺は、返事の代わりに無言でタンデムシートを指差した。
そして、タンデム用のヘルメットをメットホルダーから外した。
少女はヘルメットを受け取ってかぶり、後ろに座った。

海岸線、漁港、山道、市街地、農道…
その色々な場所で、彼女は感嘆の息を漏らしていた。
「…そんなに珍しいか?」
「まぁね…あたしはあの村の外ってほとんど知らないから」
「ホントかよ…生まれてからずっと?」
「ううん、そういうわけじゃないよ」
「じゃ、何故?」
「それはね…」
彼女はとてもぎこちなく、自分の過去を語り始めた。
言葉に詰まったり、一気に喋ったり、まるで何かのタイミングを計るように。

「…一応、あたしにも彼氏がいたんだよ。バカだったけど」
「いた、なんだ?」
「ん、そう。あなたと同じでバイクが大好きで、よくこうして走ってた」
「今は?」
「今は…そこ、止めて」
言われるままにバイクを止める…と、
そこは最初にこの少女とであった場所だった。
彼女はヘルメットを脱ぐと地面におき、ガードレールの方へと歩み寄った。
「…ある日、彼は私と走ってるとき、対向車をさばききれず、
 バイクはコントロールを失ってしまいました」
「…おい、待て…」
少女は俺の制止も聞かず、ガードレールを跨ぐ。
「そして二人を乗せたバイクはガードレールに激突、搭乗員は投げ出され…」
「待てっ!」
バイクを降りて駆け寄る。
ここで少女を止めなければ…そう思ったが、
彼女の目を見て、動きが止まってしまった。
「…楽しかったよ…ありがとう」
彼女は、ガードレールの後ろへ消えた。
彼女が視界から消えて数秒して、ようやく体が動いた。
しかし、崖を覗き込んでも少女の姿は影も形も無かった。
今のタイミングなら、高さからしてまだ森には落ちていないはず。
だが、何処を見回しても全く見つからなかった。
俺はそこからさらに数秒を費やし、ようやくある結論に至った。
「…昼間の幽霊なんて、反則だろ」
確かに、少女の体温を感じることが出来なかった。
重さも、手の質感もあったのに。
今は、少女との思い出しか残っていない。

俺は、今日ので少女が成仏したことを祈るしかなかった。