MD

今日は、ちょっとした珍事が起こっていた。
俺には悠稀(ユキ)という彼女がいる。
しかし、悠稀は普段ほとんど、何かを求めるということをしない。
その悠稀が、「日曜日は絶っ対開けておいてね」と言ったのだ。
つまり今日。

悠稀の家に呼び出されているので、身支度を済ませることにした。
悠稀とお揃いの指輪、悠稀が選んだペンダント、バイクの鍵、
ヘルメット、財布諸々が入ったポシェット、携帯電話、
眼鏡、ライダーグラブ。
バイクは、これも悠稀とお揃いのチョイノリ。
指輪とバイク以外、二人で揃えている物は何も無い。
それだけ共有してれば十分だと思われるが…コレ以外、
求められた覚えがほとんど無い。

程なくして、悠稀の家に到着した。
ここの親は普段、夜遅くまで帰ってこないから気楽でいい。
チャイムを鳴らすと、パタパタと音がしてドアが開けられた。
「よ。来たぞ」
「ん。上がってて」
悠稀はリビングへと姿を消した。
俺も、悠稀の部屋がある2階へと上がる。

悠稀が求めない本当の理由はこの部屋にある。
安く、質素にまとまっている部屋。
その中で、異常なほど目立つスピーカー群とコンポ。
悠稀曰く、音楽に包まれていればそれだけでいいらしい。
その中でも更に、音質には別格気を使っている。
実際、俺が遊びに行くと必ず音楽が流れている。
「音楽があれば俺は要らないよな」と言うと、
混乱しながら声を荒げて反抗する姿はなんとも微笑ましい。

「いやいや、どもども」
「どもども。…悠稀、またMD増えたんじゃないのか?」
開口一番の質問に少々戸惑っているようだ。
「ん…まぁ、またMDの空きが無くなっちゃったし」
「文句言ってる訳じゃあないぞ。CDはレンタルだから安いもんだし」
「私も、妥協に妥協してLP4モードで録音してるんだからね」
「…まぁ、その割にこの音響施設はさすがに如何なものかと思うぞ」
「だって…音が悪くなるから、その分こっちでカバーしないと」
「だけど」
「ひゃあ!?」
悠稀が持ってきたお菓子をテーブルに置いた所で、
不意打ち的に悠稀を抱き寄せる。
「悠稀のお金で買ったものだ。いいんじゃないかな。…して、今日の用事は?」
「あ、うん。んとね…私、車買っちゃったの」
悠稀は、前々から車を買うんだと張り切っていた。
部屋の改造が終わったら今度はそっちか…とも思ったが、正直ありがたい。
何せ、俺は原付免許しか持っていない。
しかもチョイノリだから、長距離ともなるとかなりキツイものがある。
「んしょ」
と、悠稀は俺に向き直った。

「実はね、昔からお金を溜めてたんだ。スピーカーとは別に」
「ほぉ…車の金を溜めつつコレを揃えたのか…すごいな」
「んー…でも、溜め始めた頃は私も若かった。若気の至りだなーと思ったよ」
「ふーん…何を狙ってたんだ?」
「…マイバッハ62」
ブッ、と飲んでいたものを噴出しかけた。
「そーかそーか…俺は、それを若気の至りだと認識してくれて嬉しいよ」
…つまり悠稀は、5000万円貯めるつもりだったらしい。
「いやねー、税金多そうだし」
そっちか。
「…確かに、自動車税は4500〜6000ccクラスで88000円だ。
 重量税も2.5t〜3tクラスで37800円。税金だけで年間12万以上か
 しかし、もっと大事なことは無いか?」
「え…っと、ちょっと大きすぎるかな?」
「ちょっとじゃないぞ。どこの駐車場でも余裕ではみ出せる」
「あとは…燃費」
ホントに分かってないのか…?
「…買おうと思ったら、5000万円オーバー」
「……」
悠稀の動きが止まった。
「…アレ、460万じゃなかったんだ?」
「0が1つ足りない。4643万円だ」
何を買ったのか、ものすごい不安だ…

「それで、何を買ったんだ?」
「あ、うん。さすがに無理だなーと思って、国産にしてみました」
「…それで、セルシオだのシーマだの言ったら、ちょっと軽蔑しちゃうぞ」
「違うよー、アルファードだよー」
ちょっと、頭痛くなってきた。
「…どのグレード買って、いくらかかったか言ってみなさい」
「…アルファードハイブリッド、Gエディション8人乗り。560万円」
「ほぉ…てことは、オプションしこたま付けたって事ですか?」
「う…私の意向を説明したら色々オプション薦められて…
 ちょっとオーバーしちゃったから、「私、これしか持ってません」って
 持ってたお金をドン、とね」
そう言って悠稀は見積書を差し出した。
もう…もういいっすよ…
「で、俺が呼ばれた理由は何?」
「あ、そうそう。今日が納車なの。だから一緒に行こう?って」
「あぁ…そういうことか。いいよ」
「うん、じゃあ行こう」
気が付くと、悠稀は自分の分のお菓子を既に食べ終わっていた。
俺も手早く平らげ、納車に向かうことにした。

ディーラーに着き、悠稀と店の人がなにやら最終確認を始めた。
俺は退屈しのぎに店の中を見ていたが…MR-S、いいなぁ…
「終わったよー」
悠稀は、万年の笑みで鍵を握っていた。
「どらどら」
早速車の中を覗く…さすが550万円、作りこみが半端ではない。
センターコンソールから運転席、
ドアノブ、ハンドルにまでボタンが並んでいる。
「…ミサイルとか出ないか?」
「いやいや、出ても困るよ。ありがとうございましたぁー」

店の人にお辞儀をし、ディーラーを後にする…と。
「ん?ドコへ向かうんだ?」
「ガソリンスタンド。だって、ガソリン無いんだもん」
覗き込んでみると、確かに少ない。
「あ、そだ。コレの中身をココに移しておいて」
そういって悠稀はポシェットを出し、
二人のあいだにあるコンソールボックスを指した。
鞄を開けてみると…大量のMD。
「…悠稀。予想はしていたけど…この大量のMDは?」
「あ、うちにある曲、それで全部だよ」
「…確か、こんな量ではなかったと思うんだけど…」
「うん、車用に録音しなおしたの。無圧縮だからMD1枚でアルバム1枚」
「いつの間に…」
「あ、適当に1枚入れてくれない?」
見ると、全てのMDに曲名と、「車用」と書いてあった。
とりあえず、悠稀お気に入りの椎名林檎のMDを入れ…ようとして。
「…コレ、どこに入れるんだ?」
「ん?あ、画面の左下にOPENってあるでしょ」
そう言われて押してみると画面が前に出てきて、MD挿入口が出てきた。
「ハイテクだなぁ…」
「でしょー。ハンドルの所で音量調整も出来るし…あぁ♪林檎ー!」
「悦るのはいいけど、前はちゃんと見ろよ…」

この、車購入という一大イベントのおかげで、
二人のデートはより楽しいものになった。
友人を誘って乗ったり、行った先で寝泊りも可能だし、
これで、他のことも求めてくれれば…とは思うが。

「そうだ。ハイブリッドだから、ギリギリ2t超えで重量税高くなるよ」
「え"!?」


はっふー…もうダメです。どこがMDだや、と。
MDに関する取材をさせてもらった悠稀さんにも、
「文章サイトというより車&バイクサイトですからなぁ。」
なーんて言われるしw

さて、恒例の(?)車紹介コーナー。
主人公がトヨタで覗いていたMR−S。
2シーターオープンスポーツで、シーケンシャル6MTが最大の魅力。
欲しいんだけどねぇ…(いいから

次ー、マイバッハ62。
ヴィルヘルム・マイバッハが1920年に作ったものを
最新技術によって現代に蘇らせた物。
メルセデス・ベンツのさらに上を行く、文字通り最高級車。
62というのは、全長が6.2mあるということ。
国産車で5m超えは滅多に無いので、とんでもなく大きいことが伺えるかと。
ホイールベース内にVitsが収まってしまう。
本体価格:4643万円
エンジン:5500cc V12 SOHC ツインターボ
最大出力:550ps/5250rpm 91.8kgm/2300〜3000rpm
車体重量:2855kg
怪物です。

最後に、アルファードハイブリッド。
悠稀が見せた見積書の内容は以下の通り。

ALPHARD HYBRID "Gエディション" 8人乗り
ZA-ATH10W-PRXG8-G
車両本体価格 4,120,000
           
ビルドインETC    39,000
シアターサウンドシステム   240,000
電動カーテン    75,000
パワーバックドア    55,000
レダークルーズコントロール    80,000
ツインムーンルーフ   105,000
オプション合計価格   594,000
           
フロアマット    54,000
セパレーターカーテン    11,000
アイボリーカーテン    28,000
リバース連動ミラー    12,000
防眩ミラー    15,000
エアピュリファイヤー    32,000
ルームイルミネーション     9,000
フロントステップガーニッシュ    12,000
サイドステップガーニッシュ    20,000
スリーピングマット    29,000
リヤバンパーステップガード    10,000
付属品価格   232,000
   
車両本体価格 4,120,000
付属品価格   232,000
オプション価格   594,000
自動車取得税   212,130
自動車税    22,500
自動車重量税    94,500
自賠責保険料    39,260
ディーラー手数料    47,240
消費税   249,662
   
合計金額 5,611,292

自分で見積もってるんで、おそらく微妙に違います。
室内・運転時の快適性を追求した結果です。

…えぇ、調べながら「これってMDっていうタイトルなんだよな…」って思ってましたとも(涙w

取材協力:R9沿い、トヨタビスタ島根