パステルエナメル

「よう」
「また…会ったね」
青い、青い空。
水面の乱反射が眩しい。
砂は焼けるように熱く、
太陽の日差しが容赦なく大地を焼く。

「何故こんな所へ?」
「別に…理由は無いよ」
突然現れた旧友。
黒く艶のある長髪と、真っ白で無垢なワンピース。
胸元にはパステルエナメルのネックレス。
それに負けないくらいの白い肌。

「…日陰に行こう」
彼女の顔がまともに見れない。
見てしまえば、何かが終わってしまう気がしたから。
二つの影は移動し始めた。
自転車を押す、チキチキという音が2つ。
アスファルトを蹴る足音が2つ。

坂に差し掛かった。
軽い自転車とはいえ、この坂はキツそうだ。
「…持つよ」
彼女を振り返ったが、まだ顔が見れない。
肩口や首から、目線が上に行かない。
「え…いいよ。大丈夫」
「まぁいいから」
彼女は「じゃぁ…」と、自転車を俺に渡した。
さすがにズシッと来るが、腰を落として押し上げる。

やがて、高台のベンチに着いた。
自転車を停めている間に、彼女はベンチに座った。
俺は…どこに座ろうか少し躊躇し、
彼女から50cm離れたところに座った。

会話は無い。
二人、眼下に広がる港町を眺めたっきり。
すると、彼女から話し始めた。
「…最近、何してる?」
「…何も。…そっちは?」
「…私も、何も」
「学校は?」
「つまらないよ。勉強は面白いけど、それ以外は何も」
「そっか…」
俺が辞めてしまった学校。
彼女はまだそこにいる。
俺のような、アウトローな人間とは違うのだ。
彼女はまだ空を飛び、高みを目指しつづけている。
俺は地に堕ち、もう飛び上がることは出来ない。

「…まだ」
「?」
「あ、いや…」
「なぁに?」
「…いや、まだ、そのネックレスつけてるんだな、って」
「あ…」
昔、彼女に贈ったネックレス。
未だに彼女の胸元にあるのは、何故?
「…そりゃ…ユウ君にもらったものだし…」

多分、俺がその言葉の真意を知るためには
膨大な時間がかかるだろう。
だけど、一つ分かることは…彼女も高度を落とし、
俺のところへ堕ちようとしていること。
いや…堕ちるのか、降りるのか。
それを知るのも、まだまだ先のようだ。