ボクは、ここにいる。
ベランダからは、ボクの街が見える。
まだ幼かった頃、ここから見える街は別世界で、
ボクは町内の世界しか知らなかった。
やがて大きくなり、ボクは自転車で、自分の住む街という世界を知った。
商店街。
湖岸道路。
大型デパート。
神社。
橋。
大きな交差点。
住宅街。
ボクの知らない誰かが住む世界。
原付バイクを手に入れ、ボクは隣町という世界を知った。
似ているようで違う。
ボクの知らない世界。
知ってる人なんて一人もいない。
知ってる道なんてひとつもない。
果てしなく続く2車線道路。
街中では上下左右にうねり、
街を外れると、ただひたすら1直線。
バイクはとっくに限界だけど、
道路はそれをあざ笑うかのように、只真っ直ぐ。
とうとう、ボクは250ccバイクを手に入れた。
ボクに走れない場所はない。
高速道路だって、堂々と乗れる。
30km/hの時速制限に縛られることもない。
隣町の直線道路も、他の車と一緒に、余裕で走れる。
そしてボクは、大冒険を試みた。
隣の県、3時間かけて山を越えた。
朝靄のかかる時間帯。
Avr:90km/hで爆走する。
空気はまだ冷え切っている。
だけど、ボクにはそんな事ちっとも問題じゃない。
誰もいない山道。
誰も起きていない農村。
やがて、太陽が煌々と照り付け、霧が晴れていく。
それと同時に、ボクは大都市へとやってきた。
広い道路。
巨大なビル。
はるか先まで続いてる渋滞。
その横を縦横無尽に駆け抜けるバイク。
ボクはその、地元の人たちのバイクには到底ついていけなかった。
ボクとは違う世界に住んでいる人達。
ボクには見たこともない世界だけど、彼らにはこれが当たり前。
ボクはたまらず、高速道路に逃げ込んだ。
そこにも、ボクが全く知らない世界があった。
料金所を通るや否や、とんでもない加速度でフッ飛んでいく車たち。
今こそこのバイクの真の力を試すときと、
ボクはバイクに全力の鞭を入れた。
回転数計は見たこともない領域まで回っていく。
速度計も、体感したことのない領域まで回っていく。
世界が、加速していく。
風圧がすごい。
でも、彼らはこれが当たり前のようだ。
は・や・い…
そくどけい が ふりきれた
かいてんすう も げんか い だ ・・ ・
ばいく が ふ るえ る
ころ んだら し ぬ
ボクには刺激の強すぎる世界だった。
だけど、この道は果てしなく続いている。
その先にはボクの知らない世界がまだまだある。
この海の向こうにも、言語すら違う世界がある。
それに比べたら、ボクはなんて小さい存在だろうか。
広すぎる世界は、ボクには…
「涼!!」
「うぉ!?…なんだ、百合か」
「あんたね…何っ回「飛ばすな」って言ったら気が済むのよ?」
「い、いや…その…」
「あんたのバイク、メーターどこまできってあるの?」
「……150km/h」
「ほぉー…それを振り切ったと?」
「ほら、トンネルのなかって風が無いだろ?つい…」
「…そんなに死にたい?そんなに私を泣かせたい?」
「あ、謝るよ…ごめん…」
「あんたねぇ!謝って……でしょ……!」
「だから……だって……!」
|