ガコン。と、深夜の寒空に金属同士が鈍くぶつかる音が響いた。
それに続いて、プラスチックのような、軽い音が続く。
そして、この夜だけでも何度目か分からなくなるくらいのため息が静かに漏れた。
今、自分がどこにいるのか全く分かっていない。
光の絶えた街を抜け、漆黒の雪道を、弱々しいヘッドライトだけを頼りに走り続けた。
左手には黒い牙を剥く山、右手には無限の闇を湛える海。
等間隔に、寸分の狂いも無く動きつづけるワイパー。
時々、大粒の霰が車体を激しく打つ。
心は闇に侵食され、意識は徐々に薄れていく。
そんな中、自動販売機の光は強烈に俺の目に入ってきた。
そして、燃え盛る火に飛び込む夏虫のように、俺はそこで熱いコーヒーを買った。
一口飲む毎に体内を熱いモノが広がっていく。
それと共に、消えかけていた意識が一気に覚醒する。
その覚めた意識で現在位置を確認しようとしたが、すぐに諦めた。
山と海しか見えないこの場所では、推敲する材料すらなかった。
やがて、コーヒーが人肌程度に冷えた時、突然心臓がドクン、と高鳴った。
少し体温が高い手。細く、なめらかで、儚さすら感じた。
離すまいと必死で俺の手を握っていたあの手は、もう…無い。
ハッと我に返った時には、コーヒーも右手も冷え切っていた。
残ったコーヒーを飲み干すと、今度は冷たいスポーツ飲料を買い、
そのまま車に乗り込んだ。
天気は相変わらず、いつ雪や霰が降ってきてもおかしくない。
そのまま進むか、街へ帰るか、しばらく考えた末…俺は先へ進むことにした。
その先に何があるかは分からない。
だが時間はまだある。
時間もまだ午前二時。
どうせ、誰も今の俺の行動を知る術は無い。
…この、自動販売機以外は。
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