ガチャ、と寒空に金属音が響いた。
あたりは静まり返っていて、余計に音が大きく聞こえた。
しかし、私は構わずドアノブを捻り、ドアを開けた。
部屋の中も、シンと静まり返っていた。
かすかな室温の変化から、今日の午前中は家にいたことがうかがえた。
部屋の中は相変わらず汚い。
…そんな部屋だからこそなのかは分からないが、壁にかかっている
優雅に羽ばたく白鷺の写真が目立って見えた。
「白鷺は冬になると平野部に下りてくる。
だから、今の時期が一番楽しみなんだ」
と、彼が熱弁していたのを今でも覚えている。
その熱意に押され、私は彼が頻繁に外出するのを承諾している。
確かに、会えないのは寂しいけど、それくらいの我侭は聞いてあげないと
普段は私が我侭ばかりだから割に合わない。
…が、特に鷺に執着しているわけではなく、単に
雪景色と野鳥を撮影するのが好きなだけだったのは、その後すぐに分かった。
…一度、心の底から反対した事がある。
道路脇のパーキングエリアに駐車して、河原で撮影をしている時、
泥酔状態の高校生が運転していた車が、猛スピードを出していたために
カーブを曲がりきれず、彼の車に直撃した。
私が初めて、彼の撮影に同行していた時だった。
車の場所に戻ってみると車は跡形もなく、代わりにタイヤ跡があるだけだった。
車は2台とも崖下に転落、爆発炎上という大惨事に到った。
私達は即119番に電話したが、その後の事は知らない。
多分、生き残ってはいないだろうけど…
結局、彼は撮影を止めなかった。
言っても聞かないだろうとは思っていたけど…コレに関しては実に頑固だった。
それどころか、これが好機とばかりに車をカーゴタイプに買い換え、
彼の撮影嗜好が増大しただけだった。
…彼は、私がどれだけ心配しているかを、一割も理解しているだろうか。
飛び去る直前の鷺を撮影した写真。
いつか、彼もこの鷺のように飛び去ってしまうのだろうか…?
カツン…カツン…ガチャッ。
「帰ったぞー…来てもらってるのにいつも留守でゴメンな」
「え"…あ、うん…」
「ど、どうしたんだ!? 強盗でも来たのか!?」
何時の間にか、私は泣いていたらしい。
彼は、撮影機材を床に放り投げて私に駆け寄ってくれた。
私はうまく喋ることが出来ず、首だけを横に振った。
「じゃあ一体何が…地震か?交通事故のニュースでも見たか?」
私は再び首を横に振った。
そして、彼の誤解を解く意味も込めて彼の胸に飛び込んだ。
「うわっ…と…まぁ、紗那が無事なら一安心だけど…」
彼と鷺と、決定的に違うのは…彼は必ず帰ってきてくれる。
そう信じさせる力があるだけなのかも知れないけれど、私にはそれで十分。
いつ、どんな異変が起きるか分からないけれど…彼には、
私を心配はさせても、帰りを待たせる何かがある。
…今のところは、それで納得しよう。
これで何度目か分からないけど、今回もそう思うことにしよう。
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