遥か昔の記憶。
夕日に照らされた河川敷。
数メートル先を駆ける少女。
駆けても駆けても、追いつけない。
時折振り向いて笑顔を見せながら少女は駆ける。
必死に追いかける自分。速さはほぼ同じ。
追いつけない。でも楽しい。
その不思議な満足感が、その頃は「恋」なのだとは知らなかった。
日が沈めば、お別れ。
いつもの十字路で手を振って、夕焼けに燃える空を背にする少女。
僕の背には藍色の夜空と白色の月。
次の日までのお別れだけど、振り返って月を見るたび、寂しいと思った。
親に向かって、「なぜ兄弟にしてくれなかったのか」と無茶を言った事もあった。
現実は覆らないと知りながら。
そう思っていたある日、その娘は僕の家にやってきた。
だけど、その娘はうつむいたまま、何も喋らない。
いつもの元気な笑顔は微塵も見えなかった。
親は「今日から兄弟になったのよ」と言う。
そんなバカげた話があるはずもない。
しかし、事実、目の前にいる「妹」。
僕は、「そういう事もあるんだ」としか解釈できなかった。
家では、ほとんど何も話さない。
無言のまま家を出て、授業が終わるといつの間にか消えてしまう。
…あの頃の彼女は、完全に消えてしまった。
今いるのは、彼女の見た目をした誰か。
自ら動くロボットか何かでしかなかった。
二人の間の時は止まったまま、世界は回り続ける。
小学校に上がる時、彼女と再び離れ離れになった。
どうも、彼女の引き取り手が見つかったらしい。
…彼女との記憶は、ここで途切れた。
彼女のいない生活が7年続いた。
彼女の事を思い出すのも稀になってしまっていた。
皆、名前が「勇」だから呼びやすいのか、「ユウ」と呼ぶ。
だけど、彼女が呼んでいた、あの呼び名だけは忘れない。
「…るーや、くん?」
…?
「あ、いや、あの、人違いだったらごめんなさい!」
「いや、いいんだけど…その名前、まさか…?」
彼女は帰ってきた。
新しい家、新しい家族、新しい環境を得て。
両親の離婚から10年の時を経て、その区切りとして転校してきたらしい。
中学の半ばということで、反対も多かっただろう。
それでも、彼女は約束を果たすために無理やり来たと言った。
幼い頃の約束。
その言葉の重さを、当時は知るよしもなかった。
だけど、彼女はしっかり覚えていた。
今思えば、なんてバカな約束。
それでも…今の僕にも、その約束を断る理由はどこにもなかった。
高校も卒業し、これから社会人になる。
その傍らには、彼女がいる。
幼い頃の約束、「ふうふ」になったから。
姉弟ではない、「きょうだい」の関係。
それは、最も強いキズナ。
|