スーパー「エルミナ」の惣菜店。
値段の割に味がよく、作り立てを買えることも珍しくないので、
夕方はいつも主婦でにぎわっている。
(今日の夕食はー…)
美紀子は一人暮らしをしているが、研究が詰まってくると
惣菜で夕食を済ますことも珍しくない。
ついでに翌日の昼食も買えるからだ。
(てんぷらと、唐揚げと…あ)
ふと、手が止まった。
白身魚のフライ。
達也の好物で、付き合っていた頃はよくこれを弁当に入れていた。
達也の弁当のおかずと交換、という名目で買っていたが、
最近も時々、美紀子の弁当のおかずを奪うので
これを身代わりにする事も多い。
もちろん、後で別のおかずを奪うが。
だからいつも何気なく買っていたが…今日は妙にひっかかるものがあった。
言葉には表しにくい何か…を黙殺し、フライもトレイに詰める。
表しにくい、表せない、表したくない。
はっきりさせたいようで、認めたくなくもある。
答えを押し返したり、手繰り寄せたり。
そんな問答を繰り返しながら帰路についた。
昼食時。
いつも通りの秋風に、いつも通りの日差し、いつも通りのメンバー。
この6人がめぐり合えた事に感謝しつつ、昼食を広げる。
「あ、エルミナ行ったんだ」
「うん、最近は特に忙しくてねー」
加奈ちゃんは自宅通学だけど、家事を積極的にする分、
多分私よりも家事が上手なんだろうなー、と思う。
「というわけで今日も頂く」
後ろから箸が伸びてきたかと思うと、
白身魚のフライの半分が奪われた。…タツだ。
「あ、コラ。せめて正面から来なさいよ」
「まぁまぁ。今日は美紀子の好きなだし巻き卵があるぞ」
…これで普通…?
こんな感じの受け答えでよかったっけ…?
湧き上がる「違和感」を「黙殺」で塗り潰す。
「あのね、タツに取られるため、に、入れてるんじゃない、のよ?」
「んー…そのワリには、いつもちゃんと半分になってるのな?」
「そりゃ、タツがいつも…取るからでしょ。
ほら、切らないと入れにくいし」
「まぁ、半分にして重ねりゃ場所も取らないけど…」
違和感に侵食される。
普通にしなきゃ、普通にしなきゃ、普通にしなきゃ。
認めたくない、認めたくない、認めたくない。
「でも取るのはどうかと思うぞ」
「ん?あ、柊か。いやまぁ、慣例というか…
ちゃんと俺のおかずも提供するんだし」
6人目の仲間。
仲良し6人組。
…のはずなのに。
「なんだ、幼馴染か?」
「いや…まぁ、モトカノというやつだ。フラれちまったけどな」
「それは、タツが…!」
違和感が、拭いきれない。
「…美紀ちゃん?だ、大丈夫?」
こうなったら、もう止められない。
大粒の涙が溢れてくる。
…加奈ちゃんの声が、何故かとても温かい。
「う"ん…ちょっと、疲れただ、け…」
認めて楽になりたい気持ちと、認めたくない気持ちが交錯する。
「…美紀ちゃんいじめたー」
「え!?俺のせいか!?」
「ミキチャンイジメター」
「涼に言われる筋合いは無いぞ」
「美紀ちゃん泣かしたー」
「雄哉もかよ」
「…………」
「…柊、せめて何か言ってくれ…怖い」
「…じゃあ…フライ返してあげなよ?」
「いや、ソレは違うと思う」
ひとしきりの言い合いの後、誰かが近づいてきた。
「何がどうしたってんだ?」
タツだ。
「アンタは関係ないの!」
「いや、まぁ、そうは言ってもだな…」
顔を覆っている腕から目だけ出して、睨んでやった。
でもまだ涙が止まらないから、私には何も見えない。
…昔、散々使った合図。
「…OK、分かった。分かったからそう睨むな」
「?」
他の人たちも理解していたけど、
百合ちゃんだけは自体を飲み込めていないみたい。
「何だ?急に」
「あぁ…いや、要するに暫く放っておけという事だ」
「そうなの?」
「まぁ、これも昔取ったなんとやらだ」
残る問題は、ここまで顕在化してしまったこの気持ちを、
どう受け止めて、納得するか…だ。
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