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魔理沙「んーー!!」
ひとつ大きな伸びをする。
幻想郷は幽々子の一軒以来、すっかり春になっている。
魔理沙「しっかし…平和すぎるのも問題かもな…何一つやる気が起きないぜ」
そんな折…
コンコン。
魔理沙「…ん?開いてるぜ?」
ガチャ。
咲夜 「霧雨魔理沙、いる?」
魔理沙「…そりゃ、私の家なんだ。いるぜ」
尋ねて来たのは咲夜だった。
手には1冊の本をかかえている。
咲夜 「あぁ、良かった。ちょっとお願いがあるんだけど」
魔理沙「咲夜が頼み事なんて珍しいな」
咲夜 「ま、正確にはお嬢様のお願いなんだけどね」
魔理沙「…ま、うちに来るつったらそんなもんか」
他愛の無い会話の後、咲夜が真剣な顔になる。
咲夜 「それで、この本を見て欲しいんだけど…」
魔理沙「お、これはグリモワール。くれるのか?」
咲夜 「話が飛びすぎ。でも、上手くいったらくれるかもね。お嬢様のものだし」
魔理沙「何…2割冗談だったのに」
咲夜 「たった2割か」
魔理沙「そりゃともかく、話って何だ?」
咲夜 「ええ、私は先日、この本に書いてある、とある薬を試したの」
魔理沙「ほぅ…」
魔理沙の食指が僅かに動く。
魔理沙「で…効果は?」
咲夜 「何らかの副作用を伴うけれど…魔力を高められた」
魔理沙「副作用…か」
咲夜 「で、触媒となる魔力を、私の時符で代用して、そこら辺にいたリリーホワイトに試した」
魔理沙「鬼かお前は…で、どうだった?」
咲夜 「…強烈な弾幕を撒き散らしながら、春を伝えに超特急で去ったわ」
魔理沙「…野放しにしていいのか?」
咲夜 「大丈夫。1日たてば戻るわ。きっと」
魔理沙「きっとかい」
魔理沙「で、本題は何なんだ?」
咲夜 「そう。この薬を、貴女に作ってほしいのよ。お嬢様が、上手くいったら欲しいと」
ふむ、と黙り込む魔理沙。
魔理沙「…リリーが特急になったのは、時符のせいか?」
咲夜 「ええ、恐らくは」
曰く、時を止めるほどの力は無いので、時を減速させているのだろう、と。
魔理沙「…その話、断る」
咲夜 「あら、貴女に拒否権は無くてよ?」
魔理沙「脅しかい」
咲夜 「お嬢様の願いを遂行するためなら何でもするわ」
魔理沙「…作ってやらなくもない。でも咲夜が飲め」
咲夜 「嫌」
魔理沙「…お前ね」
咲夜 「じゃあ、何で作るのが嫌なのよ?」
はぁ、と1つため息をつく魔理沙。
魔理沙「…今、私の家にはマスタースパーク用の恋符しか無い」
咲夜 「はぁ」
魔理沙「そんな、副作用が危険極まりないと分かってるモノをわざわざ作ったりしない」
咲夜 「あら、飲ませるのは別に誰でもいいのよ?紅白娘でも」
びくっ、と魔理沙が反応する。
今度は僅かに動くなんてものではない。
例えるなら、未知のおもちゃを手にした子供のよう。
咲夜の方を向いた瞳はそれこそ、目からスターダストレヴァリエが出そうなほどギラついていた。
…数日後。
魔理沙「お、来たな」
咲夜 「それで、肝心なものは出来てるの?」
魔理沙「それはバッチリ。これだ」
魔理沙が取り出した小ビンには何らかの液体が入っていた。
ビン全体が紫色をしていて、容器の色なのか液体&気体の色なのかは外見では分からない。
咲夜 「…これ、試したの?」
魔理沙「いや…だから怖いんだよ。副作用が断定できない」
咲夜 「あら、恋符で作ったんだから、予想できるんじゃない?」
魔理沙「そうでもない。世の中にはストレートなのと、咲夜みたいに曲がりくねったのがある」
咲夜 「誰が曲がりくねってるですって!?」
魔理沙「…レミリア」
咲夜 「お…お嬢様は、特別」
魔理沙「特別って何だ…」
咲夜 「貴女!お嬢様ほどの絶世の幼…もとい、美女をさしおいて!」
魔理沙「女って時点でどうかと思うが…幼女って言いかけたな?」
咲夜 「い、いいから!話を進めるわよ!」
魔理沙「はいはい」
魔理沙「でー、やり方は分かってるか。でも以前はどうやって飲ませたんだ?これ」
咲夜 「あら、時を止めれば造作もない事よ?」
魔理沙「時を止めてまで飲ませたんか…」
咲夜 「実験して、危なくなかったらお嬢様、そしてパチュリー様にお渡しする事になってるのよ」
魔理沙「…で、1発目は失敗だったか。にしても、レミリアは何でそんなもんが欲しいんだ…?」
咲夜 「それは、パチュリー様の興味本位」
魔理沙「はぁ…ま、悪用しないんならいいけどさ。この本面白そうだし」
咲夜 「それで、そろそろ実験しない?」
魔理沙「ふむ、いいだろう」
博麗神社。
紅白の巫女は、今日も縁側で横になって暇を持て余していた。
霊夢 「春ねぇ…」
服の乱れも気にせず、訪れた春の光を全身に浴びている。
こうしている時の霊夢には、異性同性を問わずドキッとさせるものがある。
…口の端からよだれを垂らしている事以外は。
咲夜 「…霊夢の頭の中、本格的に春?」
魔理沙「ここまでくると、ちょっと問題かもな…一日中ああしてるんじゃないのか?ヘタすると」
魔理沙と咲夜の二人は、神社から少し離れた崖の上に潜んでいた。
咲夜 「こないだの一軒(東方妖々夢)で燃え尽きたようにも見えるけど…」
魔理沙「それもあるかもな…あぁ、上着がどんどんずり落ちて…あいつ、女としての自覚あるのか?」
咲夜 「眠ってる人間にそんなものないでしょ」
魔理沙「…確かに」
魔理沙「…なんでここにいるんだ?私ら」
咲夜 「こ〜れ。貴女も春になったの?」
例の薬を魔理沙の前に突き出す咲夜。
魔理沙「おっと、そうだったぜ。…って、飲ませるのは咲夜だろ?」
咲夜 「私は時間を止めるだけよ。飲ませるのは貴女」
魔理沙「う。そういうのは苦手なんだけどな…」
咲夜 「大丈夫、時は止まっているわ」
魔理沙「そりゃいいけどさ…でも、霊夢が何かを食べようとしないと混ぜられないぜ」
咲夜 「そうね…ならば、小石でも投げて起こす?」
魔理沙「そうだな…咲夜、頼む。投げるのは得意だろ?」
咲夜 「私が得意なのは撒く事。…でもまぁ、貴女よりはマシかもね」
適当な小石を拾って、咲夜が霊夢にむかって投げる。
小石は放物線を描き、上手い具合に霊夢の近くの岩に当たった。
霊夢 「ん……」
魔理沙「うし、成功」
霊夢は暫くボーっとした後、彷徨うように神社の中へ入っていった。
魔理沙「服直す気ないのか…」
咲夜 「これで何か持ってきてくれればいいんだけど…」
その咲夜の願いが通じたのか、霊夢はお茶と菓子を持ってきた。
お茶と菓子を縁側に起き、その横に腰掛ける。
ふぅ、と息をつき、「春ね」、と一言。
左手に菓子を、右手にお茶を持ち、お茶をつぃ、とすすろうとしたその時。
咲夜 「今よ!」
霊夢の動きがぴたりと止まった。
どうやら、このタイミングで時を止めたかったらしい。
魔理沙「もっと時を早く止めてもよかったんじゃないのか?」
咲夜 「早く薬を入れると口をつける前に不信がるでしょ…早く!あまり持たないのよ!」
たかが薬を盛るだけなのにこんなに力を消費しなくても…と思いつつ、
魔理沙はすばやく霊夢の横に降り立ち、今まさに口に流し込もうとしているお茶に薬をたらした。
…つもりだったが、ドバッといった。
魔理沙「げ。……ま、いっか」
咲夜の力が切れる前に、素早く撤退する。
咲夜 「はぁ…はぁ…どうしたの?さっき止まってたけど」
魔理沙「あぁ…なに、ドバッといっただけだ」
咲夜 「……」
魔理沙「……」
咲夜 「…ま、いいでしょ」
魔理沙「ちょっと、これは怖いんだが…効果が現れるまでどのくらいかかるんだ?」
咲夜 「2〜3分で効果は現れるはずだけど…」
霊夢の方を見る二人。
咲夜の言うとおり、飲んでから2〜3分は普通に菓子を食べていた。
どうやら、急激にお茶の量が増え、かつ色が怪しくなったことには気づかなかったらしい。
それだけ、霊夢の頭が春なのだ。
しかし、それを過ぎた後、明らかに霊夢の様子がおかしくなった。
ものを食べる手を止め、やたらとそわそわしだす。
あたりを見回したり、服の裾をやたら直したり、髪を手櫛で撫でたり。
咲夜 「…あれって…しおらしくなった?」
魔理沙「そう見えなくもない…だとしたら、おぞましいことになってるな…」
咲夜 「だけど、このままでは効果を確認できないわね…」
魔理沙「…こっちを見るな。私は絶対に行かないぞ」
咲夜 「…えー」
魔理沙「えーとか言うな!あそこに行くくらいなら紫の二重黒死蝶に飛び込んだ方がマシだ」
咲夜 「面白い絵柄なのに…」
魔理沙「私は何も面白くない!」
咲夜 「待った。…あれ」
魔理沙を制し、神社の方向を指差す咲夜。
神社の方を見ると、ちょうど橙が遊びに来たところだった。
魔理沙「…生贄だな…」
咲夜 「まぁ、でもこれで薬の効果が見れるってものよ」
魔理沙「霊夢に接触。…霊夢、何も聞こえてないみたいだ」
咲夜 「気のせいかしら…霊夢の目がかなりアヤシイ方向にイっちゃってる気が…あ、抱きついた」
橙「にゃっ!?わっ、ちょっ、やっ、たぁっ……ぎにゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
魔理沙「…引きずられてった…」
咲夜 「ねぇ…お堂の中って…霊夢の家?」
魔理沙「まぁ…そんなもんだ」
咲夜 「……」
魔理沙「……」
咲夜 「……」
魔理沙「……」
咲夜 「…せーの」
魔&咲「南ー無ー」
魔理沙「…効果は、嫌というほど確認できた」
咲夜 「……」
魔理沙「にしても、これは効果が危なすぎるな…ウチで封印した方がいいかもな」
咲夜 「……」
魔理沙「あの本も惜しいけど、うっかり紅魔館で
百合の花が咲き乱れても困るし…いや、直接は困らないけど…」
咲夜 「……」
魔理沙「…咲夜?聞いてるか?」
魔理沙がふと振り向くと、咲夜はどこか遠くを見たまま放心していた。
何も見ていないような、そんな瞳。
そして、咲夜の口の端に…紫色の何か。
魔理沙「…! これ飲んだのか!?」
咲夜 「…ニヤリ」
魔理沙「そんな、悪魔のような笑みを浮かべられても…」
咲夜 「フフフ…私は1つの心理を見たわ…」
魔理沙「笑いながら近寄って来るなー!」
咲夜 「叶わぬ理想より、叶う現実を謳歌するのよ!」
魔理沙「それは勘弁願うぜ!恋符『マスター…』」
咲夜 「時符『プライベートスクウェア』!」
魔理沙の詠唱速度を咲夜が上回った。
マスタースパーク発動直前で魔理沙の動きが止まる。
魔理沙「……!」
咲夜 「さーて…もう逃げ場はないわよ…」
魔理沙「―――!!!」
その後、やたらやつれた魔理沙が紅魔館の地下室の壁を
マスタースパークで館の一部ごと破壊して逃走したとか何とか。
そして、別の場所で発見され保護された橙の報告により、
博麗神社の霊夢の部屋ごと紫のフルパワー弾幕結界の中に放り込まれたとか何とか。
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