「隠密同心唐黍狐音十郎〜笑殺の剣」 (ディレクターズカット版)
時は2002年 ここ名古屋の町に珍しく雪が積もって ほんとうに白い街名古屋になった一月のある日 狐音十郎はあせっていた。 現代にタイムスリップしてからもう半年が過ぎようとしている。 現代風に言うと秘密諜報員とでもいうのか 隠密で同心という職業上 友達は少ない。 しかも 多くの機密を守るため あまりにも秘密にしすぎて 今では 本部とも連絡が取れなくなっている。 仕方なく 最新の そして今流行の 通信手段 パソコンの掲示板で仲間との連絡を 試みているのだが 時空のずれはあまりに大きいようで・・・・・ 素敵な出会いで友達はたくさん出来たのだが 狐音十郎は困っていた。 こちらに来てから覚えたコーヒーという飲み物も その違いを楽しむほどになっても何故かむなしい。 彼は チラシを急ぎめくった。 「本日限りの広告の品」 「お一人様一点限り」 「レジにて二割引」 彼は心躍らせてチラシに見入った。 だが こうしてはいられない。 何か手がかりを見つけなくては・・・ タイムサービスなら 逢えるかもしれない。 あのお雪さんのことだ。きっと現れるに違いない・・と確信した。 狐音十郎は 一枚のチラシを握り締めて 街にくりだした。 街は人通りも多く 流行のライトアップも明るく輝いて ひと時 狐音十郎は寂しさを忘れていた。 映画の看板がある。 「ハリー・キッター 賢者の右」 「コリー・ハッター サロンパスの白」 魔法モノの大人気の映画らしいが パロディとパクリは紙一重だとおもった。 なかには「ハリー・マッター ケンチャンの洗濯」 とかいうわけのわからない あぶないものまであるようだ。 それはいいとして とにかくみんなに会いたい。 彼はチラシの店舗に着き 列に並んだ。 人の列の中に お雪さんたちの顔を探した。 しかし油断は出来ない。 昔から チラシ好きに悪い人はいないと言うが チラシ好き 広告の品好きというだけで 必ずしも それが味方とは限らないのだ。 危険ではあるが あの女忍者お雪に逢えるのなら あえて この危険に飛び込もうとおもった狐音十郎であった。 そのときである。 列の先頭に 見覚えのあるダウンジャケットを見つけた。 間違いない あれは忍者学校の卒業記念にみんなでおそろいの 品をもらった 代々 由緒と歴史のあるジャケットだ。 襟に「忍び」の文字。 背中に「AYASIIMONODEHAARIMASEN」 とプリントされている。 間違いない。 お雪さんか? 後姿でいまひとつはっきりしないが・・似ている。 肩に付けた マロンちゃんのアップリケ。 バッグにつけたポンちゃんの缶バッジ。 小ガリのキーホルダー。 雪さんに間違いない! しかしここから連絡を取るのはあまりに危険だ。 あたりに敵がいるかも・・・・ 狐音十郎はメールを思いついた。 そのために「世界広域クモの巣」を利用できるようにしておいてよかった。 それに お雪さんならkasicomoだから つながりはいいだろう。 はやく 連絡をとりたい。 お雪さんなら もどりかたも知っているだろう。 だが狐音十郎は タイムマシンの存在はないと信じている。 なぜなら 未来に完成しているなら 現在に来てくれるはずだからである。(どうでもいいことだが) みんなに会えるかも・・・みんなの顔が走馬灯のように 現れては消え 常夜燈のようにいつまでも輝いていた。 「いかん! タイムサービスだ!」 整理券が配られる。 先頭の人はすでに店内へ 列は段々店の中へ吸い込まれていく。 狐音十郎は 広告の品ネスカフェ(赤いマグカップつき)をあきらめ お雪さんが行くであろう渋茶のコーナーへ急いだ。 しかし人違いならどうしよう。 忍者学校が同じだからといって 味方か敵かもわからないし 万一の場合は 駄洒落でしらけさせて その隙に攻撃を仕掛けるという やや汚いが 必殺の技「笑殺の剣」がある。 狐音十郎は お雪らしき人影を追った。 そのときである。 背後から声がした。見知らぬ声である。(どんな声だ?) 「あのぅ もしもし」 いまどき電話でもあるまいに もしもしなんて呼び止める奴は たいてい たかりかキャッチセールスに決まってる。 狐音十郎は無視して立ち去ろうとした。 しかしその瞬間 殺気が走る。 狐音十郎が走る。相手も走る。何故走る?。 「まずい!」 子供のころから「廊下は走らない」という忍者教育を受けている 狐音十郎にとっては絶対的に不利である。 思い切り走れない。何か後ろめたさを胸に抱きながらの 全力疾走なんてありえないからだ。
案の定 すぐに追いつかれた。 相手は 意外なほど落ち着いた口調で 「整理券をお忘れですよ」といって狐音十郎に差し出した。 店員さんだったのか。しかも足の速い。 「ありがとうございます」 そういって狐音十郎は整理券を受け取った。 あわてて 券を持たずにここまで来てしまったのか。 「危なかった。今思えば危なかった。」 ニヒルにつぶやいて 売り場の鏡で素敵な自分を確認した。(ほんとにあぶない) お雪さんに逢えないばかりか 目当ての広告の品も買えなかったら それは狐音十郎にとっては死ぬよりつらい。 まさに「必殺の券」である。 お雪さんらしき人も見失った。 泣きたい気分だ。 仕方なく 狐音十郎は 広告の品ネスカフェ(赤いマグカップつき)を 抱きしめ 家路を急ぐのであった。 「そうだ帰ってから お雪さんの掲示板に行ってみよう〜!」 (ツゥ〜ビ〜「コーン」ティニュウ〜???)
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