「ハリー・アップ! お雪と忍者の石」
<簡潔完結編>
さて 時は2002年
狐音十郎は申し訳なさそうに「コタツみかん」をしていた。
「こんなことで私を呼んだんですか?」 お雪が冷たく言い放った。
「ごめんね〜 でも ほんと危なかったんだよ〜!」
そういって狐音十郎は はずれたコタツの足を 自分の頭の上で振って見せた。
狐音十郎の愛用のコタツは いわゆる『家具調コタツ』ではない。
四本の足はネジ式で組み立てるタイプ。
つまり『コタツ調コタツ』というやつである。
「この足がね〜 緩んでいたから こうまわしたんだよ。
そうしたら あら不思議 テレビの画面が変わってね。」
「それで どうしたんですか?」
「見たことない番組が次々に現れるし
コタツの足がチャンネルになるなんて あ〜驚いた!」
「それで夢中になってて コタツの足取っちゃったんですか?」
「まあ そういうことになるかな」
「それにしたって 「助けて〜」ってことはないでしょ〜。」
「悪い悪い コタツは傾くし お気に入りの赤いマグカップには
熱々のコーヒーが 今にもこぼれそうで・・・・・
それで、あわてて画面に向かい「お雪ちゃん助けて〜」って叫んだんだ」
「あ、だから 私の携帯にメールが入ったのね。 ・・・・・
もう唐黍先輩は この時代でも 相変わらずなんですね。」
あきれたように お雪が言った。
<まあ たいした事が無くってよかった。>
が、疑問は残る。 媒介が どうしてコタツ、何故にコタツ。しかも足だし。。。
と、合点がいかないように首をかしげるお雪の隣では
「便利過ぎる あまりにも便利過ぎるし、コタツ調コタツ・・・」
とにかく助かったので よかった よかったと、
いたって のんきな狐音十郎であった。
が、しばらくして 忘れていた本来の用件を思い出したらしく 急にマジになって狐音十郎は話を続けた。
「実は問題というのは 近頃 頻繁に映る
今までに見たことのない番組のことなんだよ。」
「たとえば どんなの?」
「いろいろなんだが それぞれに謎がある気がするんだ。」
「・・と いうと?」
「ある番組を見たとするだろ。そのあと必ず
その筋の隠密仲間からメールが来るんだ。このテレビに来るんだよ〜」
「たとえば?」
「GO 質 GO! という質屋のCMの直後に Roshi忍からメールが…」
「 なるほど 五・七・五かぁ〜 それから?」
「LONG LONG A GO 英会話スクールのCMの後
あご忍からもメールが」
(あご忍といえば 「あごっぴがくれの術」 あの香ばしい香りとともに消えていく。)
その後は何故か敵味方なく あごっぴふりかけを買い求めたそうな・・・・。
(にっぽん昔話より)
「ほかにも何かありますかね。」 コタツの上の蜜柑の皮を剥きながら ダラダラお雪が聞く。
「うん それから 画面いっぱいに鯛が現れる
なわ忍からもメールがあったよ!」
「名和 鯛をあらわす。 といいますからね。」
いつもながら 飲み込みの早いお雪であった。
あとは 決して3分なんかでは作れやしない
「キューリー3分間クッキング」放映中には春雨忍から
デキル忍者のためのトラップ講座の途中には 陽気にステップを踏むフラップ忍から
大流行 イラスト入りカイロのCM途中には 身も心も温もるホットなメールがあたたえ忍から
スピッツのコンサート会場が映れば リッピ忍から かわいいドールハウスのCMが入ればシェル忍から
全国だけじゃなく、海外からも(か?) 横文字忍者仲間のメールが届く。
忍者仲間の全員が 何故か 世を忍ぶ仮の姿が「アーチスト」である。
目立ちたがり屋の性格がかえって正体をわからなくしているようだ。
本当に隠密なのか??? まあそれはいいとして・・・
「きっと これは何か大きな力が
皆に集合をかけているんじゃないかな。」
「それですよ!」
手をポン、と打ってお雪が言った。
そう考えると お雪が狐音十郎に呼ばれて
この時代に来たのも偶然ではなさそうだ。
確かに狐音十郎が お雪に絶大な信頼をおいているのも無理はない。
狐音十郎が大屋根のペンキ塗りに困っていた時 大凧に乗って現れて
強い風をものともせず手伝ってくれたこともある女忍者お雪である。
「敵に塩を贈る」といってまわりのものが感心していると
たくさんの塩を贈って 敵を高血圧症にした逸話があるお雪である。
事実 頼りになるものほど敵にまわすと恐ろしいということである。
狐音十郎は お雪の得意の「ポテチがくれの術」にも弱い。
お雪のまいたポテチに目がくらみ
拾い食いしてるうちに相手どころか
自分まで見失いそうになった苦い経験がある。
お雪の前では 狐音十郎の得意技
「忍法分割払いの術」もまるで歯が立たなかったのだ。
狐音十郎は ついでに 多くの仲間の得意術も思い返しながら
アパートの部屋で気取って 遠い目をした。
(狭い部屋での遠い目は無理がある。)
狭い部屋といえば 狐音十郎には好きなキャッチコピーが有る。
たしかテレビのCMで まだ大画面が一般的でないころ
大勢の意見は 部屋の狭さに対して画面が大きすぎるというものだったが
「狭い部屋ほど迫力倍増!!」・・・・秀逸。と思った。
少し悲しかった。
またメールが入った!
「今の バラ園のCMだったよね。やっぱり たか忍からだよ〜」
「たか忍の手裏剣はサービスサイズだったよね。
柱に刺さると絵になったよね〜ほんと、サービス満点〜!」
「あちこちに刺さった写真手裏剣はまるで個展状態だったし〜。」
「最近はデジ手裏剣なんで在庫うす なんだって。」
「あっ、これ、ポエムも書いてありますよ。」
「ポンちゃんのスタンプ! カワイイ〜♪♪」
と、ますますみんな集まってくる。
そういえば 美しい絵を描く くノ一コンビ「とみ&かず」
とみ忍のほうは 美しい絵に見とれていると
その絵画の裏からいきなり手裏剣が。
(絵画がもったいないという向きも有るが大丈夫。
これは複製(コピー)で, 最近手に入れた唐リオで印刷したものらしいから。)
かず忍のほうといえば 和紙をちぎった 貼ったの大騒ぎ いつの間にか このコンビには心まで奪われている。 最強コンビである。
このコンビからもメールが入った。
もうかつての NHK紅白歌合戦の中の
南極観測隊からの応援電報状態である。
「紅勝て 白勝て・・・そやかて〜」(なんのこっちゃ)
ま それはいいとして 続けて入るメール。
湖を自由自在に操る女忍者ケイ 受信中! 伊賀の里にも近いし・・・
敵が冬の夜空に見とれているうちに仕留めてしまう女忍者織音 受信中!
時間を自在に操る 女忍者カコ 未来だろうと過去太郎と(笑)爆笑中!
そうこうしているうちに みよっち忍からもメールが・・・
「良井小説先生」の一番弟子。・・・・・・ 執筆中!
「ところで 唐黍先輩 この石なんですか?」
まるで今までの話の流れを無視するかのように そういって
お雪は コンポのスピーカの上から小石をつまんで見せた。
「ああ これは忍者の石といって
忍者学校の創立50周年記念にタイムカプセルに入れたものだよ。」
「そんなこと あったかなぁ〜?」
そろそろ健忘症のお雪である。
「でもどうして先輩がこれ持ってるんですか?」
「お雪ちゃん 私は忍者学校小石拾い倶楽部の初代部長であり
最後の部長と言われた男だよ!」
「でもそれは 部員が最後まで 唐黍先輩1人だけだったって言う話でしょ?」
「うん!そう とにかくそれで私がもらって、 こうしてセンス良く飾ったってワケです。」
(よけいにわからん)
「唐黍先輩!!それは インテリア(は)
コーディネートいけねえってワケですね。」
(これはすべった)
狐音十郎は流した。
またも飲み込みのはやいお雪。
いつも助けられる狐音十郎であった。
実は 狐音十郎は小石たちにいい音楽を聴かせるために
スピーカの上においていたのだ。
ひょっとしたら この忍者の石がみんなを呼んでいるのかも。
いきなり狐音十郎が叫んだ。
「あっ! 思い出した。同窓会!
同窓会をやるんでみんなに招待状を出したんだ。」
「・・・・・・・・・」 あきれて、言葉も出ないお雪。
「あれ?だけど、どうして私には招待状来なかったんだろう?」 不思議に思い お雪が問うと
「お雪ちゃんが 家に帰る前に こちらに呼んじゃったからかな?」
「どうしてそれを?」
「だって お雪ちゃん 制服も鎖帷子もそのままだし
大事に持ってるそのみどり手裏剣の袋。買い物の途中だったんでしょう?」
「さすが先輩!」
「いやぁ〜 それほどでもあるよ」
(すべったし お雪も流したし)
きっともう そのお知らせを
みんなが見てくれている頃だろうとお雪は思った。
「そういえば お雪ちゃん 同窓会の幹事手伝ってね。」
「はいっ!」
「あっ!唐黍先輩 よく見たら ほら、もうメールに みんな「出席」って書いてくれてますよ。」
「ほんとだ、ほんと なんでそれに早く気がつかないんだ!」 不満げに狐音十郎がそういうと 「唐黍先輩!あのねぇ〜(怒)」 お雪の頭からニョキニョキ角が生え出した。
しかし 楽しみだな〜! もうすぐ みんなに会えるよ〜♪♪♪ わ〜い わ〜いと喜ぶ狐音十郎の心底嬉しそうな顔に すっかり機嫌を直し そうですね〜! みんなに会えますね〜♪♪♪ といっしょに喜ぶ ものわかりのいいお雪であった。おまけに つきあいも良かった。
そして…
狐音十郎とお雪は何故か突然現れたトロッコに乗って
どこまでもどこまでもこぎ続けるのであった。・・・・懐かしい〜!
(ココで♪「ティーチ・ユア・チルドレン」
byクロスビー・スティルシュ・ナッシュ&ヤング)
完
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