名和元四郎外伝T
座敷の奥にひとりの男が腰を下ろし、
慣れた手つきで愛刀の手入れをしている。
「美しい。。」
刀に注ぐ視線は、すでに愛する人へのそれと同じだ。
2尺3寸の大刀の名は「加古太郎」、
三河鍛冶の手による幻の名刀である。
元四郎は、ゆっくりと、ゆっくりと
刀を鞘に沈めていく。。。
パチンッ。
鍔なりの音も静かに、刀が鞘に収まった。
と、「もっかいだけ」とつぶやき
するり、と抜いた刀は手入れが行き届き
濡れたように光っている。
「美しい。。」
と、再び手入れをはじめる男。
彼の名は名和元四郎、かれこれ二刻も刀の手入れをしている
謎の浪人である。。。。
巣鴨村のはずれの古びた百姓家に数人の人影がある。
「刀のお手入れにご精が出ますね、名和の旦那ァ」
「む。。。」
「そろそろ一休みなさっては。。おい、旦那にお茶を。」
「あいよ」と、傍に座っていた女が立ち上がる。
女は年の頃、三十路の半ばといったところか。
色白で三十女の色気がほのかに立ち上っている。
「して蔵吉、例の話、もそっと詳しく聞かせてみろ。」
「へ、へい、文五郎さんは用心棒先の因幡屋の旦那を守ろうと、くノ一
お雪の一味の者に刺されなすって。」
「お雪とやらの居所はつかめぬのか?」
「そこまでは、あっしも。」
「ふむ。」
「旦那の財布を盗んだあっしの命を助けて頂いたお礼にと、
こうしてお手伝い申し上げようと。。」
「こやつめ、くさい説明台詞を吐きおって。」
と、女が茶をもって座敷にきた。
「おまたせいたしました。旦那。」
「おう、すまねェな、おきの。」
おきの・・・と呼ばれたこの女の首筋に
チラリと見えるホクロが、いやがうえにも元四郎の”男”を刺激した。
「いい女じゃねえか、蔵吉、おまえの女か?」
「いえ、めっそうも・・・」
「そうか、じゃあ、かまわねえな、も、もう我慢できねえ。」
「じゃあ、旦那、あっしは席をはずしますんで、ごゆっくりお楽しみを」
下卑た薄笑いを浮かべて、盗賊の蔵吉が部屋を出て行くと同時に、
元四郎の背中にからみつくようにおきのが体を寄せてきた。
「旦那ァ。。。」
「うぬ、もう辛抱できん、おきの、済まぬ」
と、元四郎は突然ガバッと愛刀をつかみスルリと引き抜いた。
「う、美しい。。。。この輝き。」
名和元四郎。愛刀の煌きを見ずして、
一刻も過ごすことができない刀おたくである。
当時 江戸の町は 一匹のねずみで
夜な夜な 眠れぬ日が続いていた
ネズミといっても ただの ねずみじゃあない
大店の 倉ばかりをねらう 盗人
てがかりといえば
唯一 あとに残された ネズミの張り紙
ちょうど そんなころ
貧しい どぶ板堀に 小判の雨が 降ってきたのは
住人たちは 大騒ぎ
「こりゃあ 今 噂の ねずみの しわざにちげえねえ」
と、もっぱらの噂である。
「旦那あ あんた ほんとに お侍さんかい?
いえね ちょっと あんたによく似た 男をさがしてるんでね」
おきの と呼ばれた 女のおびには
木彫りの 小さな ネズミの尾帯留め
「また めずらしい 細工じゃねえか?」
元四郎は ふと刀から 目をあげた
「これですかい これは あたしの おっかさんの 形見なんですよ
もう 顔さえ おぼえちゃいない 遠い昔に 死んじまったんですよ」
首筋の ほくろのあたりに 手をやって 遠い目をする おきの
そんな おきのの つぶやきを 聞いていないのか
もう 刀に 見ほれている 元四郎であった
「おい、おきの」
「なんだい、旦那ァ?」
「どうして、おまえさんの目の奥には寂しい光が宿ってるんだい」
「・・・・・・なんですよ、やぶからぼうに。」
「俺は、だてに刀をみてるわけじゃない。光の底にあるものをみる目は
もっているつもりだ。」
「・・・・・・」
「ふん、まあ、いいさ」
と、元四郎はくるりと背を向け、煙草盆に手を伸ばした。
「七星改造軽」の煙草の煙をくゆらせながら
「もしも、気が向いたら、いつでも話なよ」
という元四郎の背中におきのはポツリと言った。
「・・・旦那、ここ禁煙ですよ。」
がくっ、と思わぬ不意打ちを食らって一瞬
面食らった名和元四郎だが、すぐに態勢を整え
「でも、これだけは覚えておきなよ。
心はいつもつながってるさ。。。」
名和元四郎は、おきのにそう言い置いて
するりと表の戸から夜の闇へとすべりでていった。
ほどなく、ガタガタッと、裏の戸で音がしたかと思うと
ぬっと入ってきた一人の男の影!
「平四朗かい?」
「・・・・・・」
「ひっ。」
慌てて身をすくめるおきののそばへ
男は音もなく近づいてくる。。。
「刀の手入れ道具忘れちゃった。」
名和元四郎、愛刀の手入れを趣味とする謎の浪人である。
<女ねずみ おきのへGO!>
kakoさん扮する「おきの」と名和さん扮する名和元四郎が
繰り広げる面白くて、ちょっぴり切ない大人の世界。
二人のBBSから失敬してこっそりUP。