名和元四郎外伝U東海道中膝枕
「では、まいりましょうか、元四郎殿。」
品川宿を出て、旅装束の侍が二人、東海道を下っていった。
「父も、畠山殿が墓に詣でてくれれば、草葉の陰でよろこびましょう」
(おきの)。。。
あんなこと(「おきの恋の予感」)
になっているとはつゆ知らず、
ただ一筋におきののことを思いつつ
父の墓参りへと向う元四郎や、あわれ。。。。
と、その二人のあとをつけるひとりの男の姿があった。
身のこなしは、忍びの者か!?
数時間前、佐助は偶然にも
あのとき、自分をつけてきた侍を見つけた。
顔はよくみていないが、体つきでわかる。
件の侍は、奉行所の同心らしい男と話をしている。
しばらくつけていくと、川原に腰をおろし、流れをずっとながめている。
石をひろってなげたりと、なんだがブルーな感じだ。
そのうち、腰をあげたかと思うと、歌を歌いながら歩をすすめはじめた。
佐助は距離をおいて、またつけ始めた。
と、件の侍、例の「いなばや」へと入っていったではないか!
むかいの茶店にすわり、侍の様子を伺う佐助。
侍は、真っ赤な花を一輪買って出てきた。
いなばやは花屋さんだったのだ。
なおもつけていくと、巣鴨の百姓家にはいる。
見張っていると旅支度ででてくるではないか!
この侍、先ほどの同心とおちあって東海道をくだりはじめた。
今宵は品川宿に泊まるのであろう。
佐助は「おもしろそうだ」と、二人の跡をつけていく決心をした。
ここは賑やかな縁日の片隅。
ヒョットコの面で顔を隠しながら仲もつまじい二人の後をつける男一人。
「あねさん、あっしはあねさんがそんなお人だとはおもいませんでしたよ。」
蔵吉は苦渋の面持ちで言った。
「あたしゃ、あねさんをみそこないました。ええ、ええ、帰りますとも、国に帰らせていただきますとも。」
と、すっかり頭に血がのぼっている蔵吉である。
「あんな若造に骨抜きにされちまって、みてらんねえよ。お世話になりんした。」
そのころ甲賀の里ではお雪が、
「せっかくだから、大和へいって、文五郎さんの育った柳生の郷へ
これを埋めてあげたい」 と、文五郎の遺髪をにぎりしめていた。
それぞれの事情と感情が交差するなか
運命の糸によって知らず知らずのうちにある出来事へと
手繰り寄せられていくのだった。
「むにゃむにゃ、おきの。。。」
ねむっている元四郎は
密かに寝間に忍び込んだ佐助の気配に気がつかなかった。
「よく寝てやがる。しかしこの侍、何ゆえ俺を尾けようとしやがったのか。。」
ごそごそ
「なにか、身元のわかるものは。。」
とたん、寝ていたはずの元四郎がガバっと身を起こし、二本の腕で佐助を絡め寄せた。
「(しまった、気配を消していやがったのか。もうだめだ。)」
「グググッ」元四郎の腕に力がこもる。が、なんか様子が変だ。
「んんん、おきの〜」・・・ブチュー。
?????????????????????
佐助は、なにがなにやらわからぬうちに、元四郎の布団に押し倒されていた。
「ん、ぬぐ、や、やめ。。。あ。」
いつしか佐助の腕も、元四郎の首にまわっていた。
「あ、あ、はあ、はあ、はあ」絡み合う指と指、重なりむさぼるように動く舌。
勘違いの夜は更けていく。。。。。
ガバッ!
畠山同心は目覚めた。
「ふう、夢か。ヘンな夢みちゃった」
気付くと汗びっしょりになっている。
「しかし元四郎殿とホモっていたあのくせ者は、誰?
って、自分の夢に文句つけても仕方ないな、はっはっは」
畠山同心の横には、元四郎が愛刀を抱いて眠っている
「ううん、おきのお。。むにゃむにゃ」
「拙者ももう一眠りするか」とふとんをかぶる畠山同心の姿を
天井裏の節穴から覗いてる目は
誰あろう佐助のものであった。
むにゃむにゃ。。。んんん。。」ガバッ!
きょろきょろ。。。
「どこじゃ、ここは?」
目覚めた元四郎があたりを見回すと、みたことのない部屋で寝ている。
窓は障子ではなく「びーどろ」がはめられている。
寝ているところも、よく見れば畳に敷かれた布団ではなく
なんか、人が二人は寝られる大きさの長方形の台のようだ。
広い。。しかもフカフカしている。枕もフカフカだ。。。
「?ど、どこやねん、ここ?」思わず関西弁でつぶやく元四郎。
と、振り返れば、横に誰か寝ているではないか。
黄金色の髪を見て「異人か!」と布団をめくってびっくり。
そいつも、自分も一糸まとわぬ姿なのだ!
しかも、相手はオナゴではないか!
「。。んん、なあにィ、もう起きたのォ?」とこちらに視線をむける女。
「い、異人か、おぬし?」
「はあ?何いってんの?」
「その髪、髪の色」
「えー、ただの茶髪じゃん」
「ちゃぱつ????」
「自分だって染めてるじゃんよ、何ねぼけてんの?」
と、頭に手をやった元四郎はがくぜんとした。
「ちょ、ちょんまげがない!」
「ほらあ」と、女に渡された手鏡を見てさらに驚く元四郎。
髪の色が、金色になっているではないか!!!!
しかも、あごひげも生えている。だが、顔は確かに自分のものだ。
「なんじゃ、こりゃあ」
「もう、わかったから、おもしろかったわよ。はいはい。」
「いや、ふざけておるわけではない。拙者。。」
「ていうか、もっかいしよ!」
「は?何を?」
「何って、あーイジワル。いいもんあたしが犯しちゃう」
「え、ちょっとまって、いや、その拙者には、おきのという。。あ。」
ガバッ!。。。。
「ゆ、夢か」
あたりをみまわすと、見慣れた和風の旅籠の一室だ。
「ふう、ヘンな夢だったなあ。起きるか。」
荷物をまとめて旅籠を出て行く元四郎ら。
そのあと、元四郎の布団を片付けていた
旅籠の女中がふとあるものに目を留めた。
「なに? この落ちてる髪の毛、金色?茶色?。。へんなの。」
そのころ、西へ向うふたりは
「畠山殿、拙者、ゆうべおかしな夢をみましてなあ」
「ふむふむ」と、道中話に花を咲かせていた。
そろそろ本編に戻るのかな。。。