<おきの外伝U>

 

きがつけば

もう日は暮れようとしていた

あわてて 家に向かうおきの

入り口のまえには蔵吉が

おきのを まちかまえていた

元四郎を 見つけ出せず 戻る途中に

人ごみの中に

見知らぬ男と おきのをみつけた蔵吉は

一部始終を見届けて さきまわりしていたのであった

「おきのさま 今日はそう呼ばせていただきます

あなたの 子守り役としての使命をおおせつかったのは

おきのさまが7つ 私が5つのときでした」

「はいはい。。」

「覚えておられますか

剣術の道場の帰り道。。」

「ええ そういえば

ちいさな 蔵吉が 私の荷物を全部もってくれてたっけ」

「いえ そんなことはいいんです」

 

蔵吉「そんなことは いいんです それよりも

確か あれは。。う。。うま 馬の助じゃなくて。えーと」

「佐間の助!でしょ」

「はい  その 馬の助様

当時 

同じ 道場に通う その方に 一目ぼれした

貴女様は

なんとか 声をかけるきっかけを作ろうと

いきなり 私を 池におとし

「あーれーだれかー ひとがおちたー」

その声に 馬の助のおおばかやろうは

何を おもったのか 逃げて帰りやがって

おきの様は あわてて お屋敷まで助けを 呼んでくると

私ひとりを 置き去りに。。。」

「そうだったわねー」

「運良く とおりかかった 師範の先生が 助けてくださったからいいようなもの」

「はいはい」

「それにですよ

えーっと さ。さ。さる。。」

「猿渡様でしょ」

「はい その猿と

結婚できなくては 飛び降りてしんでやると

お庭の 木に 攀じ登られ

木登りの 苦手な私が

その下で どうしたものかと 思いあぐねているところへ

木の枝ごと 貴女様が落ちて きたことも・・」

「こわかったわー

あのあと蔵吉ったら 目をさまさないんですもの

本当に 死んでしまったかとおもったのよー 」

「私も 父上から

命を 賭けても お守りするようにとのおおせつけ

そんなことより

まだ その 癖なおって なかったんですね・・・」

「ごめんちゃい」

とにかく こみいった なりゆきに

ふたりは

元四郎の不在に きがつく ひまが なかった

あわれ1輪の薔薇は まだ 役目を はたせずにいた

 

 

 

あれから

そう あれから どれほどの 時間

いや 日にちが たったというのか

おきの 以外 だれもいないこの いえに

こうして ほおづえを ついて

なにをする わけでもなく ただ ため息ばかりをついている

自分に きがつく

確かに 名和元四郎という 存在は

大きく おきのの 心を しめるようになっていた

そこに 当然あるもの それが

なくなってみて 初めて 気が付く

なぜ? なにも つげず 立ち去って いってしまったのか

 

そう あの日

夜店めぐりから かえってみると

「もう こんな時間まで どこほっつきあるいてたんですかあ?」なんて

いつもなら 出迎えてくれる 蔵吉がいない

まさか つかまったんじゃあ 一瞬 背筋に 冷たいものが・・

しかし 家の中に はいってみると

「実家に 帰らせて もらいます」と蔵吉の 置手紙が・・

その横には すでに ドライフラワー化 した

1厘の 薔薇が・・

どきっ

なぜか それが 名和元四郎の別れを 告げるものだということが

すぐに よめた

(だって いかにも 他の とこでも やってそうなんだもの)

 

とうとう 自分ひとりに なってしまったことが のみこめた

とたんに いままで 張り詰めていた 心の糸が 音をたてて切れた

亡き両親の墓の 前で あれほど かたく誓った 思いも

なぜか 急に むなしく思えてきた

自分ひとりで 何ができるというのか?

このまま 普通の 娘として 一生すごすのも いいものかも知れない

しかし それも 今となっては・・

 

初めて 元四郎と出会った日から

間違いが あってはと 蔵吉に 眠り薬を せんじてもらい 

飲ませてきた

通常の 量では あまりにも 心配と

迷わず 3倍にしたものを 

「それじゃあ 死んじまいやすぜ」という 

蔵吉の言葉には答えず飲ませたこともあった

次の朝

何事もなく 元気に目を覚ました 元四郎をみて

「大丈夫だったみたい」と 顔をみあわせた

蔵吉と自分

いつのまのか 夜のねずみは すがたをけして

よそへでも いったんじゃあねえかと まちのうわさが 

たち始めていた

 

 

 

誰もいない 寺の 境内を歩いてみた

河原沿いも なんどもいったりきたり してみた

人恋しくて

気が付くと いつも 雑踏のなかに きてしまう自分がいる

どこかで 子供が 泣いている

何かを ねだって 母親に しかられているようだ

そういえば 何故か 自分には しかられた 覚えがない

やさしかった 両親

でも その優しさに 言いようのない さみしさを 覚えたのは なぜなのか

おきのには どうしても 気になることが あった

自分には 不思議なことに 幼いころの 記憶が ないような気がする

そのことを 問いただすと

決まって

川に落ちて 高い熱を 出したせいだといわれてきた

蔵吉は まだ 自分とはであっておらず しるはずもない

こうして 川面を 見つめていると

ただ 遠い記憶が よみがえってくるようで・・

 

<名和元四郎外伝U東海道中膝枕へGO!> 


おもろい・・・  おきのさまって、そういう方だったのか!

新たな発見に日々新たなり。