大和の国 柳生の庄

柳生一族の領地であり、剣客名和文五郎こと柳生文五郎の故地でもある。

江戸から因幡へと歩をすすめていた

浪人名和元四郎と江戸町奉行所同心、畠山巳鶴の二人は、

かつて非業の死をとげた文五郎の遺骨の一部を届けるため、

京の都から南へ下り、宇治、田辺から木津川沿いに平城山を越え

大和の国へと入った。

 

 

「せっかくじゃ、元四郎殿、大仏を参詣してまいらぬか?」

「それはいい考えですな。」

加古、いや過去、幾たびか戦火にさらされた東大寺に

その大仏はあるという。

「では、まいりましょう。」

「♪そこ〜に行けばァ、どーんな夢もォ、叶うと言うよ〜

だーれも皆ァ行きたがァるがー、♪」

「あいかわらず元四郎殿はおかしな歌を知っておるのお」

「いや、なぜか、よくヘンな夢をみましての。」

「夢?」

「固く均された黒い道を疾駆する鉄の猪や、

敷かれた二本の鉄軌を走る鉄箱。いずれも矢のような速度で走り

中には異人のような風体の者が乗っている。。。そんな夢です。」

「まことにおかしいのう。」

「その夢の中で、町にはよく諸々の音曲が聞こえ申す。それで覚えた次第。」

「左様か。して、元四郎殿、後ろ。。。」

と、畠山同心の顔がひきしまった。

 

「畠山殿も気付いてござったか?」

なにくわぬ顔のまま、しかし用心し小声で返す元四郎。

「うむ。いつから附けているものやら?」

「私が気付いたのは尾張の辺りでしたが、恐らくは江戸から。」

「あの身のこなし、よほどの大盗か、ひょっとして忍びのもの。」

「まあ、よいではござらぬか。危害を加える様子もないですし。」

楽天的に言ってのける元四郎の頭をめがけて、黒い物体が襲った。

 

 シャキーーーン 

 

愛刀「加古太郎」を抜き打ち、それを叩き落した元四郎を守るように

抜刀してあたりの様子を伺う畠山が叫んだ。

「誰じゃ、出て来い!」

 

「いや、もうよかろう畠山殿、おそらく自己紹介じゃ」

「は?自己紹介とな?」

元四郎は、自分を襲った物体を拾って畠山に差し出して言った。

「これは、飛苦無(とびくない)といって、甲賀忍びの使う武器です。」

「ふむ、手裏剣と苦内の中間のようなものじゃな。」

「左様、恐らくあの者、こちらの話を聞いておったのでありましょう」

「ふふ、おちゃめなヤツ。いずれ姿を表すであろう。参ろうか。」

 

春日大社、興福寺、東大寺などを参詣した二人は、

鹿煎餅を食べながら、柳生の里へと向かった。

 

「まもなく柳生の庄でござるな、元四郎殿」

「ええ。しかし大仏、大きゅうござったなあ。。。そうだ、携帯携帯。」

と、元四郎は、矢立(携帯筆記具一式)を取り出して

江戸にいるおきのに手紙をしたためた。

 

「気配はせぬが、あの甲賀者、まだついてきておるのでしょうな。」

「実は拙者、甲賀忍びに心当たりがござる。名は佐助、伴忍びの一人だと記憶しておりまする。」

「なぜ、そやつだと?」

「江戸にて姿を見かけてあとをつけたのですが、まんまとまかれまして。」

と、元四郎は頭をかきながら言った。

「なるほど。文五郎殿を殺ったのは、たしか甲賀くノ一のお雪とか申す者の一味でしたな。」

「ええ、同じ甲賀忍び、なにか手がかりがつかめるかと。」

 

*

 

そのころ柳生の里には、すでに文五郎の遺髪をもってお雪が到着していた。

「この遺髪を柳生の地に。」

と、粗末な石ながらも文五郎の墓をつくり、遺髪を収め、

「文五のおっちゃん、なんにもできなくてごめんね」

と、墓の前にぬかずき手を合わせるお雪のそばへ、二人の男が近づいてきた。

 

「もし、そこのおなご。ちと物を尋ねるが、柳生文五郎殿の墓はいずこかにあるか?」

(え?文五のおっちゃんのお墓?いったい誰?)と思いながら、

「ここでございますが。。。」

と顔を上げたお雪を見て、ひとりの男が驚きの声をあげた。

「おきのッ!」

「え?、あの」

「なんじゃ、おきの、なぜおぬしがかようなところに?」

「いや、その」

「おきのおおおおおお、会いたかったぞォ」

ガバッ

「きゃあ、ちょっと、おやめください、放してくださいまし、人違いでございます。」

「おきのォォォ!!」さわさわ

「ちょっと、どこ触ってんのよ、バカッ」

バキッ

「痛ッ・・・へ?。。違う?。。

こ、これは無礼つかまつった。許されよ。」

我に返って、慌ててお雪を放し、わびる元四郎。

「しかし、ここが文五郎殿の墓とは。。そちは文五郎殿ゆかりの者か?」

と、畠山同心が尋ねたそのとき、飛苦無が二人の男を襲った。

 

シャキーーーン

「上手そやねー君ィ」と、抜き打ち一閃、余裕で二本の飛苦内を叩き落した畠山同心。

が、その間隙をついて、一人の忍者がお雪を守るように立ちふさがった。

 

「だいじょうぶか、お雪!」

「さ、佐助?」

驚きながらもそこは女忍び、瞬時に身構えるお雪。

「ぬ。お雪とな!さては貴様が、文五郎殿を殺したお雪とか申すくノ一かァ!」

興奮と怒りを顕わにした名和元四郎は、愛刀「加古太郎」2尺3寸を抜き放った。

「墓前にいかにぬかづこうとも、文五郎殿は生き返らぬわ、偽善者めが!」

畠山同心も刀を正眼に構え、お雪と佐助をにらみつける。

「(できる・・・かなりの使い手だ、動けば負けるか。。)」

双方、微動だにせず相手の出方を待つ。

 

 

「お待ちくださいましッ」

と、お雪の声が静寂を破った。

「まさか、また人違いとかいうのではなかろうな。」

声をかけるや否や、畠山同心が打って出た。「でやあ!」

お雪をかばうように忍者刀をかまえた佐助が「おう!」と受ける。

上段から振り下ろし、袈裟、逆袈裟、突きと

次々に繰り出される畠山同心の攻撃をすばやくかわす佐助だが、

激しい攻めの連続に、切り返す余裕がない。

佐助の忍者刀と幾たびも激しくぶつかる畠山の太刀が、

沈み行く夕日を照り返し、オレンジ色に輝く。

 

激しい鍔迫り合いが続く中、怒号がとよみ渡った。

「そこまでだ、刀を捨てい!」

はっと飛び退った佐助が見ると、

元四郎がお雪に刀をつきつけている!

忍び道具。。飛苦無も忍者刀も、いや短刀のひとつさえ

お雪はもちあわせていなかった。

「おなごを手にかけるのは性に合わぬが、仇ならばやむをえん」

手入れのほどこされた銘刀”加古太郎”がキラリと光った。

 

 

 

 

そんな切迫している最中に一人の老爺が迷い込んできた。

見るからに薄汚れた農夫であった。

「おい親爺、早くうせろ」と畠山同心が声をあげた。

老爺は鼻汁をすすり上げ、元四郎に向かって「厠はどこかいの」と訊ねた。

「そんなものはここにはない。早く行けい。」と元四郎。

老爺を見たお雪の目の光がにわかに強まり、佐助に素早く目配せをした。

老爺は口をもごもごとさせ「ふわっふわっふぇ〜くしょ〜〜〜ん。」と大きなくしゃみをした。

すると、老爺の口からおびただしい白い粉が噴き出され、当たり一面は真っ白になった。

まるで濃霧の中のように何も見えない。

しかも、白い粉のせいなのか目が開けられないほど痛み、喉や鼻の粘膜が痺れるよう

な痛みに襲われた。

元四郎と畠山は堪らずその場にうずくまってしまった。

 

 

「ここまでくればもういいだろう」

「玄蔵、助かったよ」とお雪が言えば、

「さすがに玄蔵さんだ。見事な術でしたよ。」と佐助も応じた。

「ああ、玄蔵は大変な役者だねぇ。」

「雪の合図が無かったらおれも痺れていたかもしれない。」

「そんなことより、お雪お嬢様、江戸で大変なことが起こって...ふがふが。」

やはり、玄蔵は老爺に違いないようだ。

玄蔵は、仁之助が刺客に襲われた晩に、それを知らせるためにお雪の後を追ってきた

のであった。

そのため、玄蔵は仁之助の生死を知らない。

「何ですって、仁之助が斬られたというのかい?」

「いったい、誰に...」

「それで命に別状はないのかい?これ、玄蔵、泣くんじゃない。」

泣き崩れる玄蔵を佐助が抱えて座らせた。

「お雪、ここは一刻も早く江戸へ帰ったがいい。」

「俺は奴らのことが気にかかるのでここに残る。さあ、早く。」

お雪は玄蔵を連れて江戸へ駆け向かった。

 

お雪と佐助に逃げられた二人の剣客。

  「なぜ、あの時、躊躇したのだ?お主らしくもない!」

「うむ。。」

「どうして、ひと思いにやらなかった!」 と、詰問する畠山同心に

「・・知り合いに似ていたから」と らしくない答えを返す

元四郎の脳裏にはおきのの姿がチラついていた。

 

 

  二人は柳生の里で、文五郎を殺したのはお雪ではないことを知る。

謝らなくては。。だが、佐助もお雪も、どこにいったのか。。

    とりあえず、大和を離れ因幡へ向かうふたり。

  とある旅篭。いつも別々に風呂に入る二人であったが

この日は、畠山同心が先に入っている風呂へ元四郎が入ってきた。

 

「畠山殿、背中でも、お流ししようか」と、

湯煙のむこうにいる 人影に声をかける元四郎。

  だが、返事はない。

  おかしい。

脱衣所には確かに畠山同心の衣類があった。

そして、ほかには誰も入っていないはず。

もちろん、ここは風呂であるため、

元四郎は、太刀はおろか寸鉄も身に帯びてはいない。

寸鉄を装着して風呂に入るヤツがいたら、そりゃヘンだ。

  十分に注意をしながら、湯に体を沈め、

ゆっくりと奥の人影に 近づいていく元四郎。

  「おい、そちは誰じゃ。(もしや佐助か?)」

と問い掛ける声にも返事はない。

 

(こちらは謝るつもりでも、向こうは、まだ自分たちを敵だと思っているのでは?)

(ひょっとして、畠山同心は、殺られたのでは?)

いやな考えが頭をよぎる。

  やむをえん。

と、一気に相手に組み付いた元四郎。

が、ぷにゅ。。

 

柔らかい??と思うまもなく

「きゃあーーーーーー!」と絹を裂くような女性の悲鳴。

  「いきなり何すんのよ、バカ!」

組み付いた相手は、なんと女性であった。

 

「え???」

だが、顔は見知ったそれなのである。

「は、ハタヤマどの??。。。。ええ?」

  「いや、元四郎殿、拙者、その、すまぬ!」

声も畠山のものに間違いはない。

  だが、その色白で艶かしくも美しい体は

ちょうど脂の乗り始めた女のそれである。

そう、畠山巳鶴は、なんと女性だったのだ。

 

「このことは、内密に。。事情はあとでお話いたす故。」

「わ、分かり申した。」

「も、元四郎どの、あの」

「はい?」

「そろそろ、胸をつかんでいるその手をどけてくれませぬか」

「こ、これは失礼つかまつった。しかし。」

  しかし、ここは風呂。

若い二人の男女は、身に一糸もまとってはいない。

二人の姿は、濃くなった湯煙に阻まれ、見えなくなっていく。

「アん。。」

その向こうで、畠山の声が聞こえた。

 

 

・・・・・18禁のシーン・・・・・

 

 

      さて、一路因幡へと向かう元四郎と畠山。

池田家の家老、荒尾家の治下倉吉にある元四郎の父の墓に参った二人は

蔵吉 と、出会う。

「帰るべきところへ、おきのの所へ、戻ろう。。」

  連れ立って江戸へ戻る三人。

  第2部でのお雪のピンチに、果たして間に合うのか元四郎!

     

つづく

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わ〜いわ〜い本編再開だー♪

名和さんありがとーv

 

思わぬ展開!楽しいよー♪

TAKAさんありがとーv