で、コンビニで涼を見つけるや否や殴り飛ばし、
一時間半の灼熱ツーリングを経て、今に至る。
「あ"ぁ〜…疲れた…柊、大丈夫か?」
「うん…面白かった」
周りに守る物が一切無いバイクは、結構怖がられる事が多いが、
柊には楽しんでもらえたらしいので一安心。
さっそく館内に入ると、既に涼達はシューズを履いている所だった。
「おぃ…俺らを待つとかしないのかよ?」
「いやぁ…俺は女子2人に教えてやらないといかんしな」
「え…女子は未経験者?」
「うん。夏なら下が氷じゃないし、冷たくないならいいかな?って」
飄々としてる美紀子。
加奈は雄哉に靴の履き方を教わっていた。
雄哉も経験者で何より…あっちは任せられるか。
「…涼。お前は滑ったことあるよな?」
「あぁ?あたぼーよ。毎シーズン滑ってるぜ」
あとは…
「…柊は滑れ…柊?」
…怒ってる。
理由は分からないし、表情も普段とほとんど変わりは無い。
だけど、明らかに怒っている。なんとなく分かった。
「…川本君…私、ショッピングだって聞いてたんだけど…?」
なるほど。それなら、柊がワンピースを着てきたのも頷ける。
…滑走不可じゃないんでしょうか?
「あ…あぁ…予定が変わってね…その、こういうのもいいんじゃない?」
涼の言動が非常に怪しい。
嘘ついて引っ張り出したのか…
ここは一つ、受付のおにーさんから、滑走不可だよーと言ってもらって
柊の怒りを静めていただこう。
「すんませんー、ワンピースじゃあ滑れないですよね?」
「あ、いえ、膝当てと肘当てを着けていただければOKです」
マジっすか。
で、結局、柊をなだめて一緒に滑ることになった。
スカートで転倒することに関しては、中にもう1枚
丈の短いズボンをはいてるのでまだいいそうな。
…なのに、バイクに跨るのはダメなんですね…微妙な。
自ら足を上げるのが抵抗あるのか?
ともあれ、俺はホッケーシューズを選択して滑る事にした。
ゴツゴツしてそうだけど、フィギュアシューズよりはマシだろう…
「うーし、全員準備はできたかー?」
「オッケー」
「いつでもいけるわよ」
「あ…まだ…」
この、戸惑っていらっしゃるのが…柊。
見ると、靴紐が硬く締められず苦戦している。
ホントに腕の力無いんですな…
「…やろうか?」
「あ…うん。頼む」
「へいへい〜」
柊は椅子に深く座りなおし、スカートの裾を押さえた。
で、俺はその横に座り込む。
「…お?何かいい感じ?」
「うるさいわい」
美紀子はこういうトコは目ざといんだよな…
まずは紐をほどきなおし…って。
「…柊。もしかして、最初に紐を巻き上げてから締めようとした?」
柊は無言で頷いた。
これは…腕力云々じゃなくて、要領の問題か…
「…あー、涼。紐結んでおくから、先行ってていいぞ」
「ん?おぅ。んじゃお先ー。行くぞー」
さて…と…
最後に、紐をグッと締め上げる。
「…こんなもんか?」
「あ…うん。すまんな…」
柊を見上げると、微かに頬が赤くなっていた。
…しかし、今時の女子大生が言うセリフじゃないぞ…
「…ん?」
俺は、柊を見上げて気づいた。
…やたらと髪が長い。
肩に乗って前に出た髪は、そのまま脇の下あたりまで伸びている。
「なぁ、柊…その髪、邪魔じゃないか?」
「ん?いや…まぁ、なんとかなる」
「うーん…まぁ、邪魔だったら美紀子や加奈から何か借りろよ」
「ん…そうする」
柊は着々とサポーターを装着していく。
大体、こういう場所には蛍光色のサポーターしか無いのだが…ここには
運良く黒のサポーターが置いてあった。
そして、黒の手袋をはめて準備完了。
「…ぷっ」
「なっ!?今笑ったな!?笑っただろう!?」
柊がものすごい剣幕で迫ってくる。
多分、着けている途中で柊も気づいたのだろう…
「いや…なぁ…やっぱ、小学生か中学生にしか見えないぞ…」
「だぁーっ!だから嫌だったんだっ!」
…その剣幕とは裏腹に、慣れない靴のせいで
ヨロヨロしながら柊はリンクへと向かった。
…俺も向かいますか。
リンクへ向かうと、涼と雄哉が、それぞれ美紀子と加奈に指導をしていた。
「涼ー。滑り具合はどうだ?」
「あぁー、氷に比べると全然悪いわ。でも初めての奴ならこっちが楽かも」
ふむ…で、先に行った柊は…と視線をリンク全体に向けると、真横に柊の顔が見えた。
言うまでもなく無表情だったが…ものすごく頑張っている。
からかってやろうと、俺もリンクへと出る…
…ぬぅ。確かにこれは滑りにくい。
だけど、これくらいならまだ大丈夫。
「頑張ってるかー?」
と話しかけても、柊は目線を全く動かさない。
右手で手すりを掴みながら、ゆっくりと前へ進む。
「…なんだ。柊、結構いけるんじゃん」
柊が履いているのは俺と同じホッケーシューズ。
つま先の部分にギザギザがついてないので、
前に出るにはスキーと同じ要領で足を運ばないといけない。
「柊、スキーできる?」
「…す…スキーなら…何度か」
やはり…俺の予想は的中したか。
1周して、柊の速度は少しずつ上がってきたようだった。
冬のスポーツを経験していると、やはり応用が効くのだろうか…
…が、じれったいことには変わりないので…少々イタズラすることにした。
「…ひ〜い〜ら〜ぎ〜」
柊の左後方から、右後方へと滑りながら名を呼び、一気に距離を詰める。
多分、それを聞いて柊は直感でこの事態を予感したのだろう…
しかし、柊に成す術は無かった。
今の柊にとって生命線とも言える右手。
そこに、俺が急接近している。
無論、離してしまえば転倒は免れない。
しかし、離さなければ…
「柊ゲット〜♪」
「ひゃあぁあ!?」
こっちがびっくりするほどの声にひるみつつも、
柊の右手を奪うことに成功した。
その途端、グッと強い力が手にかかる。
「はっ、離せ!」
「お?離していいのかな?」
「あっ、だ、ダメ!離しちゃダメ!」
普段の無表情が崩れるほどのあわてっぷり…こりゃやめられませんな…
…と、苛めるのもこのくらいにしておかないと、後が怖いな…
「ほれ…まずは止まる」
「う、うん…」
右手で柊の右手を掴み、左手で手すりを掴んで減速する。
…文章だと分かりにくいが、俺は今後ろ向きで滑っている。
で、静止したところで前に向きなおし、柊の右手を左手で握る。
「…じゃ、ゆっくりと足を出して…なるべく手に力をかけないように」
「ん…んー…」
まだ手に力がこもっているが、ゆっくりと柊は進み始めた。
「うん、最初はゆっくり…スキーと同じように…」
「……」
「そうそう。足を横に開きながら、その力で前に進むんだ」
「…ごちゃごちゃ煩いぞ」
「はいはい」
ここでフッと、柊の右手を離してみる。
「あ!うわ、わっ、あ…」
離した途端にへっぴり腰になり、両手をわたわたさせて慌ててる。
…可愛い…じゃなくて。
「ほら、ちゃんと立って前を見て。両手でバランスを取って」
わざと少し前を滑り、柊を促す。
「くっ、待て…!」
手で宙を掻きつつも、少しずつ速度を上げる柊。
うむ、スキーの経験は生かされて…
「この…バカ!!」
「ぐほぁ!!」
右脇腹に強烈な一撃をもらい、その勢いで転倒した。
「百合ちゃん苛めるんじゃないの!」
「ぬあぁぁ……!」
吐きそうになるのをこらえながら上を見ると、
やはりへっぴり腰ではあるが、美紀子の姿が見えた。
「お前…スケート靴の時の方が破壊力ないか…?」
「何言ってるの。手加減しなかっただけよ」
…つまり、普段は手加減してるのか…
普通の靴で本気出されたら、逝ってしまいそうだ…
その後、柊は加奈に保護され、女3人での自主特訓が始まった。
一人が躓いて、3人まとめて転ぶさまを笑いながら、
男3人はリンク横のベンチで休んでいた。
「…しかし、雄哉。加奈をここには連れてきたことなかったのか?」
「え?うん…いつも、僕だけ上手いからって嫌がるから…」
「それで今回のを俺様が企画したってワケだ」
「涼。お前はしゃしゃり出なくていい」
「んだよー」
「でも…タツ君は、柊さんと仲良かった?」
あまりに久しぶりな雄哉の質問に、俺も涼も驚いてしまった。
「あ、あぁ…まぁ、バイクに乗る時にひともんちゃくあったからな」
「ふぅん…お似合いだったよ…」
「う…あ、あんまりそう言われても…なぁ…」
…なんだか、雄哉と話すとペースが狂うな…
「しかし柊さんを見てみなさい。あんなに生き生きとしてるじゃないか」
加奈・美紀子に手を繋がれて滑る柊。
髪がなびき、服と相まって何とも言えないモノを感じる。
…で、膝当てと肘当て、黒い手袋…
「「「…ぷっ」」」
3人同時に吹いた。
「…やっぱり…小学生にしか見えないよな…」
「だろ?靴紐結び終わったときからそう思ってたんだけど…」
「わ、笑うなーーーっっ!!」
どうやら柊はこっちを見ていたらしく、大声を張り上げて怒り出した。
「うぉ、やべぇ。逃げるか」
「そだな」
俺達は急いでリンクへと滑りだした。
それを3人で追いかける柊・加奈・美紀子。
…いつもの5人に1人増えただけど、
これはまた、楽しくなりそうだ…
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