(1)見島沖でとれた世界的希有の「えい」 |
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昭和10年(1935)の海軍記念日の日(5月27日)に見島の沖で頗る珍妙な大なるえいが捕獲された。普通のえいの肌には鱗がなくて滑らかであることは誰もよく知つて居ることであるが,此えいは不思議にも全身に菊花に似た小さな鮫粒を密布し,尾も亦赤えいの鞭状をなすのと大違ひで,幅広く稍々鯰の尾に類似した鋭き毒劍のあるところは兩者同樣である。長さ約1間(180cm)幅約4尺(120cm)と云ふ當大なるものであつた。 これに稍々似たものに印度及南洋方面にトリゴンセツフエンと呼ぶ一種のえいが居る。此えいの皮膚が全部つぶつぶの鮫肌であって,所謂日本刀の鮫づかの鮫皮である。此えいの皮が昔は板に貼り付けられて我國に送られ日本刀を飾るに用ひられたものである。印度の博物館には此えいの標本が陳列され,夙に學会に知られて居るが今こゝに紹介する珍妙なえいは未だ學会に知られぬ珍物のためか,我國の魚学者には之を知るものがない。私はかゝる珍物は容易に得難いものと思ふから,藥液約一石(180リットル)を入れるべき容器を新調し,フォルマリン漬として滿2年間貯藏し,後乾燥せしめて,自分の博物館に陳列した。 |
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【「萩文化」昭和13年(1938)6月号】 | |
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