(10)世界的珍魚「龍宮の使」

 余は萩魚市場で數日前計らずも萩市沖合の引網に懸つた我國は勿論世界的にも極めて稀れに捕獲される學名「レガレックス」普通「龍宮の使」と稱する珍魚を採取し,直に寫眞に撮つた上,入念に實物大に寫生し,之に原色を施した後,後日の参考に資する爲めホルマリン漬として大瓶に保存することにした。此魚は長さ1m余巾4寸(12cm)餘あつて大躰太刀魚に似て薄平たく躰色も銀白色,瑠璃色の斑點が多數散在し頗る美しく,脊ビレ腹ヒレは細長く朱色を呈し,中でも腹ヒレは膜状に擴がつて居ると云ふ珍奇な形態を有し,實に其名の示す如く形態の優美色彩の華麗なる龍宮の乙姫樣の使として相應はしい魚である。
【「長州新聞」昭和8年(1933)9月30日】

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魚博士の立派なと驚く 萩の珍魚「龍宮の使」


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 昭和14年(1939)12月初め萩市越ヶ濱の大敷網にて捕獲された珍魚龍宮の使(學名レガレックス)は長2尺5寸(80cm)体扁平で,細長き所稍々太刀魚に似て其銀白色一層美しく立派で,更に色の小斑魚体全部に散在,頭上には6本の深紅の長きひれが鬣(たてがみ)の如く高くそびへ,胸部よりは2本の腹ひれ之れ亦素敵に長く垂れ,其先端奇妙に瓣状に擴がる,其他脊部の鰭(ひれ)200近くあるが,悉く深紅で,眼は頭に比し著しく巨大で物凄く白く輝き,口は無齒なるが著しく前方に突出するなど,怪奇の數々を集め,流石に乙姫の使者として耻しからぬ美と氣品とを兼備せる魚で,學名のラテン語,「レガレックス」も王樣と云ふ意味を有す。昭和8年(1933)に似たる此種類を菊ヶ濱沖合で捕獲し,之を入念に原色實物大に寫生した。之は東大の魚博士田中茂穗氏が寫し取り,標本の代りとせられしことあり。今回のは最近魚の分類で學位を獲得さられた新進の權威者蒲原稔治博士に寫眞一葉を進呈せしに御寄送のレガレックスの写真は實に立派なものにて貴地に色々と面白き材料の揚るに驚き入り候云々の禮状に接した。
【「萩文化」昭和15年(1940)1月号】

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學者から懇望された珍魚の寫眞

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 最近萩近海の鯖島の大敷網で捕獲された珍魚龍宮の使(學名レガレックス)標本は色澤の艶麗と形態の優美な點では,恐らく魚族中の首位を占める程で學名のラテン語も王と云ふ意味を含んで居る。銀白色に黒い無數の小斑點が散在し,鰭(ひれ)は全部深紅色で,頭上と腹とは特に長く奇觀を呈して居る。之を撮影する際に側で觀た人々は皆異口同音に實に立派な魚だ,何んと~秘的なことよ,眞に龍宮の使の名に相應しいと激賞した。之は俗人の觀た僞らざる感じであるが,自分が既に此種の標本並に寫眞を所持するにも拘らず,今回更に之を繰り返すのは,之が完全な標本で,容易に手に入らぬ大切なものであるからである。由來此魚の眞相は學者にも判然しなかったので,以前私の採集した尾部の缺損(けっそん)せる不完全なものゝ寫生圖でさへ,東大の魚學の最高權威田中茂穗博士は畫家に頼んで寫し取ったと云はれたことがある。今回の寫眞が新聞に發表さるゝや,魚族研究では本邦屈指の權威朝鮮總督府技師内田惠太郎氏は早速私に一書を寄せて寫眞を懇望された,其書翰(しょかん)の一節に次の如く記してある。レガレックスの完全標本が取れました由若し御差支なくば其寫眞及び測定記録御惠與願へませんでせうか朝鮮近海で入手したことあれど完全標本はなかなか手に入らぬもの故丁重に御保存願へれば將來の研究資料としても貴重なるものと存じます云々。尚ほ現今魚學の新鋭蒲原稔治博士にも寫眞一葉を進呈せしが,始めて見たと大に喜ばれ,鄭重な禮状に接しました。今まで完全なものゝなかったのは餘りに細長いので他魚から喰ひ取られるためと思はれる。寫眞の實物は,長さ4尺5寸(135cm)幅最も廣き部1寸6分(4.8cm)餘。
【「萩文化」昭和16年(1941)3月号】


リュウグウノツカイについて

東京人形倶楽部 あかさたな漫筆のホームページへ
P27「リュウグウノツカイと人魚(1)西村三郎の場合
「3.近代のリュウグウノツカイ」


東京人形倶楽部 あかさたな漫筆のホームページへ
P29「リュウグウノツカイと人魚 拾遺
「4.田中茂穂・蒲原稔治」




群馬県立自然史博物館企画展
「ニッポン・ヴンダーカマー 荒俣宏の驚異宝物館」
にて撮影

【2005年10月1日】
液浸標本が,剥製としてよみがえりました。

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