日本一の「大せんだん」
並びに「センダン」と「栴檀」との別に就て


 萩市内に於て「せんだんの木」の可なり大なるものは所々に見られるが元夾此木は稍々老成すると朽廢し易く,從って甚しく長壽を保ち驚くべき巨大樹を産することが少いと云はれて居る。現今此木の巨樹を以て天然記念物として指定されている居るものに,コ島縣の「鍛冶屋原せんだん」と云ふのがある。(他にはない)然るに我萩市椿區沖原(南明寺近く)には之にも勝る大せんだんがある,目通り最も大きい部分は周圍2丈5尺(450cm)餘で根本は約6間(10m80cm)近くあり,恐らく日本一の大せんだんであらう。最近天然記念物に指定された。兎に角我ク土に日本一を有つことは1つの誇りで欣快事である。
 次に此際一言附記すべきは,此せんだんの木に,漢字の栴檀を充つるのは當を得て居らぬ,專門家は皆之を嫌ふ,それは所謂二葉より香ばしのせんだんなら之でよいけれど,我國に野生するせんだん(一名オーヂ)は漢名もこれとは違ひ,丸で縁の遠い植物である。之は東印度の熱帶に産する大喬木で,其材が香氣に富むので佛を彫んだり檮≠造ったりする。センダンの名は梵語を其儘(そのまま)之を漢字で音譯したものである。尚ほ此木は妙なことに,自分の根で地中から養分を吸收する以外に,一部の根を他の植物(アカシヤ其他)の根に入れて,其れに寄生する特殊の生活をする半寄生植物に屬する。
【「萩文化」昭和13年(1938)12月号】

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